木谷高明 今月のまとめ 出張版

新型コロナウイルスの影響により、5月29日発売の「カードゲーマーvol.52」ではブシロード取締役・木谷高明氏のコラムは休載となりましたが、緊急事態宣言の解除を受け、本誌編集部も取材活動を再開いたしました。
6月4日、およそ5か月ぶりに木谷氏を取材することができましたので、緊急事態解除後初のコラムをここに掲載いたします。
新型コロナウイルスに翻弄された激動の数か月間を、木谷氏に振り返っていただきました。

◆コロナ禍は“戦争”

 世界を襲った新型コロナウイルスの影響で、カードゲーム業界も大きなダメージを受けている。カードゲームのみならず、近年はプロレスや舞台などライブエンターテインメントに力を入れてきたブシロードも、さまざまな対応を求められた。政府がまだオリンピック開催を見据えていた2月中旬。国内初の死亡者が出た翌週から木谷氏はすでに対策に動き出していたという。

「あの時点で政府の対策が出遅れていたので広がらないわけがないと考えていましたが、今思うとその読みはおおよそ当たっていました。2月17日からの最初の数日間はめまぐるしかったですね。17日会社で、社員には“This is war”だと話しました。来週以降は集まらないということを伝えて2日間で在宅・時差出勤の仕組みを整えてもらいました。各アニメスタジオやゲーム会社のラインを確認してもらったところおおむね問題なさそうでした。特にゲーム会社は結構在宅でいけますという返事が多く、結果、ゲームアプリに関しては緊急事態宣言中も止まらず進めることができました。社内の感染対策としては、まずノートPCとマスクの調達に動きました。ノートPCは2月17日当日に50台を秋葉原と新宿で購入できたんですが、マスクは日本ではどこにも売っていない。アメリカの現地法人に頼んで、6万枚ほどをすぐに購入しました。その後も数回輸入して、累計で10万枚以上を、社内とカードショップなどの取引先などに配りました」

 2月19日から在宅勤務と時差出勤を施行。徒歩通勤が可能な社員は出勤し、木谷氏も車で通勤することとなった。

「会社の近くに住んでいる社員には、緊急事態宣言以降も歩いて出社してもらいました。2年前から会社の近くに住むことを推奨する制度を作っていたため、社員の15%ほどは歩いて来ることができる距離に住んでいたんです。これは本当によかったと思います。『バンドリ!』の宣伝会議も5、6人の少人数で毎日やっていました。今回は近くに住んでいるスタッフに助けられましたね」

 今年に入りマスクプレイミュージカル(ぬいぐるみ人形劇)「劇団飛行船」を子会社化するなど、ブシロードはさらにライブエンターテインメントに力を入れるべく舵を切ったばかりだった。このタイミングでの自粛要請。ダメージは計り知れないが、木谷氏の決断は早かった。

「直近のイベントは中止するように動きました。主催イベントはすぐ決定できるのですが、出展予定のイベントの中にはなかなか中止にならないものも多くあって、そういう場合は出展自体を取りやめました。イベントの中止は開催の直前まで迫ると実際に開催する7~8割の予算がかかってしまうので、1か月以上前に決断しないといけないのが大変でしたね」

 新型コロナへの対策を講じる木谷氏だったが、しばらくして木谷氏自身も自宅待機を余儀なくされた。講師として招かれたセミナーの来場者に新型コロナの感染者が出たのだ。

「2月13日に都内で、石川県の産業創出支援機構が開催するセミナーで講師をしたんです。そうしたら21日に石川県から初の感染者が出た。その方が私が講師をしたセミナーに来ていたことがわかった。名刺交換くらいは絶対しているので、強制的に自宅待機となりました。テレビのニュースでそのことを知って、奥さんに自分が濃厚接触者であることを伝えて、そこから2週間、自宅を出ませんでした。でも家にいることでいいこともあって、腰を据えて映像作品を鑑賞する時間ができました。『D4DJ』を手掛けてくれている水島精二監督の『機動戦士ガンダム00』も劇場版まで全部観て、感想のメールを送りました。出社しているとなかなかこういった時間が作れないので、そこに関してはよかったですね」

 ライブエンターテインメントやカードゲームなど、人との接触が避けられない事業は大きな被害を受けたが、自宅にいる時間が増えたことで、スマホ向けアプリなどは好調なようにも思えるが実際にはどうなのだろうか。

「当社のカードゲームに関してはこの3か月、売上がダウンしています。逆にゲームアプリが伸びたかなという感じです。今回、ブシロードグループの事業のうち、プロレスやライブコンテンツなど3割ほどがやられました。グッズに関しては通販が伸びましたが、ライブでの販売がないのでとんとんくらい。トータルでいうと2月後半から5月末までの機会損失や実損のある程度を特需的な部分でカバーできたかなと思います。痛手ではありますが、当初はもっとひどいダメージを想定していたので、思ったほどではなかったと感じています」

◆動き出したアフターコロナ

 緊急事態宣言中は店内の対戦スペースの使用が不可能となり大きなダメージを受けたカードゲーム専門店。早急に大会を開催することが重要だと木谷氏は提言する。

「6月に入ってから、5社のカードゲームショップの本部を訪問して話を伺いましたが、やはり大会を早くやってほしいというニーズが多かったですね。その声に応える形で公認大会の早めの解禁と全国大会の実施を考えています。店舗にてWGPの日本選手権を開催します!」

 店舗では8~16人という少人数で予選を行ない、地区決勝でも部屋を分けて32人を超えないように徹底すれば開催可能という判断だ。

「これは実際に現場を回ったからこそ出た施策です。夏には間に合うようにはじめようと思います。大会以外のイベントも動き出します。現在は無料配信といった形を取っていますが、7月からのイベントについては通常開催に向けて社内で号令をかけて準備しています」

 夏のイベントは開催に向けて準備をしつつ、冬以降の再発にも備えるというのが木谷氏の考えだ。“あくまで非常時のなかの小休止”という認識を忘れないことが重要だと釘を刺す。

「冬にもう一度、本番が来ることを想定しています。そこに備えながらになりますが、夏のイベントはお客さんが半分だろうが無観客だろうがなんとか全部やりたいですね。ライブやプロレスは抗体検査を実施して、3密を避けつつ行ないます。富士急ハイランドでの『BanG Dream! 8th☆LIVE』夏の野外3DAYSは屋外なのでなんとかして開催したい。収容人数を半分の7,000人にして開催できればいいですね。夏に向けて全力で動いていますので、楽しみにしていてください! リスクを最大限回避しつつイベントを開催して行きます」