カード開発スタジオ ORGに聞く!「カードゲームはいかにして生まれるのか」

カードゲームにおいて、ルールやカード性能といった要素は心臓ともいえる欠かせない要素となっています。
それらを日々開発し、新しいカードを世に送り続ける「カードゲーム開発」とはどのような仕事なのか。
今回は『バトルスピリッツ』『デジモンカードゲーム』などを手掛けるカードゲーム開発の雄「株式会社ORG/オーアールジー」にご協力いただき、開発現場の取材を通してどのようにカードゲームが生まれていくのかを紐解いていきます!

※記事の最後にはORGの新規テスター募集を掲載しています。お見逃しなく!
※求人募集は終了いたしました。

 

■1枚のカードが生まれるまで

まずは、ORGでカード開発がどのようなプロセスで進められているかをお伺いしました。
例えば、新規タイトルが発売することになった場合、以下のような工程でカードが開発されていくとのこと。

①企画立案
販売メーカーが企画を立ち上げ、開発を依頼される。
ミーティングを通して企画のコンセプトや販売計画などをヒアリングしていく。

②テーマ・ルール制作
メーカーが出した企画に沿ったテーマや、ゲームの基礎となるルールをデザイナーを中心に制作していく。大まかなカードの種類、収録枚数などもこの段階で決まっていく。

③イラスト設定、制作依頼
カードに描かれるイラストをデザイナーがイラストレーターへ割り振り、制作を依頼していく。

④カードリスト制作
カードの詳細な性能を含めたリストをデザイナーが作成し、ゲームバランスなどを調整していく。

⑤校正作業
カードにルールの齟齬や表記ミスがないか、校正チームがリストのチェックを行なう。その後、イラストレーターの制作したイラストを配置したカードの状態で再度チェックし、修正を加えていく。

⑥色校
印刷所へデータを納品し、商品と同じ品質のカードが印刷される。
引き続き校正チームを中心に、色味や印刷の状態も含めた最終チェックを行なう。

⑦校了
最終データを納品。メーカーが製造、販売を行ない、商品がユーザーへ届けられる。

 

また「テーマ・ルール制作」の段階から、これらの工程と並行してテスターによるテストプレイが行われます。
テストプレイは、文字通り試作段階のカードを実際に遊んでみて「ルール、カード性能が正しく機能しているか」「コンセプトに沿ったプレイフィールになっているか」「ゲームが楽しいか」といった要素を確認していくというもの。
このテストプレイを何度も繰り返し、結果を制作にフィードバックしていくことで、よりエキサイティングで完成度の高いカードゲームが誕生していくわけですね!

取材では、実際のテストプレイを見学させていただきました。ぱっと見はただ対戦をしているような光景ですが、開発段階のカードがプロキシ(仮カード)の状態で使用されていたり、性能に関するディスカッションが度々挟まれたりと、テストプレイならではの作業も確認できました。

続けて校正ルームも見学。取材時はちょうど新商品の色校チェックをされている最中でした。色校は複数のカード画像が1枚にまとめられたシートになっており、ここからカットされてカード化されるとのこと。細かいミスも見逃さないよう、入念なチェックが行われていました。

 

▲「カード開発会社ならではのアイテムがあればぜひ!」とおうかがいしたところ、拝見できたのがカードイラストの貴重なアナログ原稿。現在はデジタル原稿が基本とのことですが、こうしたイラストの制作依頼やチェックもカード開発の欠かせない仕事になります。

 

■代表スタッフへインタビュー!

ここからはカード開発のイロハや、今回新規スタッフを募集しているテスターの業務について、ORGを代表して企画開発部 部長の中澤光博氏、『バトルスピリッツ』メインデザイナーの高橋英一氏に詳しくお話をうかがいました! ※現在はスタッフ募集は終了しています。

 

▲(写真左から)中澤光博氏、高橋英一氏

 

●カード開発のせめぎあい

―本日はよろしくお願いします! まず最初に、お二人の勤務歴をお聞かせください。

中澤光博氏(以降「中」):もう30年近くになりますね。

高橋英一氏(以降「高」):僕も20年を超えたくらいです。

―どちらも大ベテランですね! 酸いも甘いも知り尽くしているところかと思いますが、そんなお二人が考えるカード開発の楽しさや、やりがいはどんなものでしょうか?

中:僕は今、自分で作るところからは一歩引いた管理職になっているので、現役で『バトスピ』のメインデザイナーをやっている高橋のほうが語りやすいかもしれません。どう?

高:そうですね……ユーザーの反応をみながらいろいろなカードやキャラクターを作って、設定を考えて、効果をデザインして、その結果をさらにユーザーからダイレクトに反応してもらえるのは楽しいですね。あと『バトスピ』はコラボも多いですが、コラボ元の作品をどれだけ再現できるかというのも腕の見せ所で、今のところユーザーさんにも好評いただいているのでありがたく感じています。

―なるほど。ちなみに、高橋さんはメインデザイナーということですが、現在は何名くらいがカードデザインに携わっているのでしょうか。

高:4人ですね。まずは自分が年間計画やラインナップ、カードリストなどを考えて、それをもとにほかのデザイナーと話し合いながらギミックなどを細かく形にしていく。そのうえで、リストをデザイナーに割り振って担当してもらうというプロセスになります。

―かなり大変な作業ですね……。ほかにも開発で苦労される部分はあったりするのでしょうか。

中:一番はスケジュールですね(笑)。制作時間やアイデア出しの時間はたくさんあるに越したことはないんですが、商品として販売する以上、限られた期間でまとめなくてはいけません。そのなかで100%のパフォーマンスを出さなければならないというのは大変ではありますが、同時に腕の見せどころでもあります。

高:長年やっていると「この効果は強すぎるかも」「ここで踏み込んだ効果にしないといいものにならない」みたいな調整の勘所もつかめてはくるのですが、それでもせめぎあいは常に発生します。カード開発の醍醐味であり、大変な部分ですね。

―そういったカード開発を複数人で進めていくなかで、重要視していることやスローガンなどはあるのでしょうか?

中:『バトスピ』で言えば、先程挙げたようなコラボの再現、いかに『バトスピ』に落とし込むかは命題になりますね。オリジナルのラインに関しては、いかに環境を変えていけるか、というのは重要視しています。同じデッキが強いままだとつまらないけど、逆に強いデッキがあまりにもコロコロ変わってしまうのもつまらない。そのバランスを調整して、環境がスムーズかつ、楽しく偏移していくかを大事に作っていますね。

高:強さの調整はもちろん大事なんですが、カードやデッキの強さは後から付随してくるものだと思っています。なので、基本的にはおもしろさとか、新しい手触りのするものとかを加えて、ユーザーを飽きさせないラインナップを意識して送り出していきたいですね。単純に強いカードを作るなら、スタッツを大きくすればいいだけなので、まずはそのカードを組み込んだらどうなるんだろうというワクワク感を重視したい。そのうえで、そのカードがどのくらいの期間優位に立てる環境にするのか、そのギミックで限界値はどれくらいで、どこまで出せばいいのか、みたいな強さとバランスのせめぎあいをしていくわけです。

中:ひとつのカードのギミックが落ち着くタイミングみたいなものも見計らっていくよね。

高:そうですね。ひとつのギミックだけで2年3年と続けていくとマンネリ化してしまうので、そのギミックへ対抗するにはどんなギミックが必要なのかというのは常に頭の片隅に置きつつ作ってます。『バトスピ』でいえば、以前はアニメの切り替わりがそのタイミングだったのですが、今は純粋に対戦の環境を見つつ、いわゆるメタが登場する時期を考えていますね。

 

●テスターはカードゲーマーの天国!?

―そういった紆余曲折の末に生まれたカードを世に送り出すまでに調整していくのが、今回募集されるテスターの仕事になるわけですが、現在は何名くらいがテスターとして所属されているのでしょうか。 ※現在はスタッフ募集は終了しています。

中:全部で20人程度になります。タイトルごとにテストチームがあって、それぞれ4~8人くらいのテスターが集まってテストしているイメージです。

―なるほど。具体的な勤務時間や、業務内容はどんなものでしょうか?

中:テスターの勤務は10時出社、18時退勤になっています。出社したら30分くらいお掃除や準備をしてもらって、そのあとデザイナーからその日テストしてもらいたい内容が伝えられます。あとはお昼休みこそはさみますが、ずーっとカードゲームをプレイしてもらいます!

―それだけ聞くとかなり魅力的ですね……!

中:僕の部屋がテスター部屋の隣にあるんですけど、テスト中はまぁさわがしいですよ。隣にカードショップのデュエルスペースがあるみたいなもんです(笑)。そういう点では、カードゲームが好きな人にとっては天国みたいな職場かもしれませんね。
16時まではプレイに専念してもらって、そこからデザイナーに遊んだ結果を報告するヒアリングの時間になります。このカードは強かった、弱かった、おもしろかった、おもしろくなかった、こういう変更が必要だとか、そういった文句をデザイナーにぶつける時間です。

高:これがなかなか難しくて、新しくテスターに来た人はついつい漠然と遊んでしまって、僕たちがほしい意見が吸い上げられないことも結構あります。ただ、そこは先輩のテスターがどういう部分を報告をしているのか横で見ていれば、自然と身についてくると思います。場合によってはテスト中にカードの効果を変えて試してみたりもして、こういう理由で変更をして、変更前はこう、変更後はこうなった……みたいな報告をもらえることもあります。そこまでいったら一人前のテスターですね!

―全力で遊びつつ、楽しいポイントや改善点を模索することが大事ということですね。ここからは細かい質問になるのですが、テスターはリモート出社などはできないのでしょうか。

中:基本は出社していただくことになります。データのチェックが主となるデザイナーや校正はリモートでも対応できるのですが、先のようにテスターは対面で細かいやり取りをする機会が多いので、どうしてもリモートだとやりずらい部分が発生してしまうので。

―次に、これはカードゲーマーなら気になるところかと思うのですが、やはりテスターとして開発に参加している以上、そのタイトルの大会などに出場するのは難しくなるのでしょうか……?

中:携わるタイトルごとに規定はありますが、基本的には権利が発生する大きな公認大会などはNGです。先のデータを知ってるプレイヤーが勝つのは不公平ですからね。ただ、逆にショップ規模の大会であれば参加しても構いません。むしろ、そこで生のプレイヤーと交流することがテストプレイの質を上げることにも繋がりますからね。

―もうひとつ、テスターとして参加するのはカードゲームが専門になるのでしょうか。

中:今は『バトスピ』『デジカ』を含めて複数のタイトルを開発していますが、どれもカードゲームになります。たまに僕が個人的にイレギュラーな業務に携わることはありますが、基本的にはカードゲームに携われると考えていただければ。日本に数社しかないカードゲーム開発専門の会社ですので、ユニークな体験ができるかと思います!

 

●カード開発に求められるスキル

―カードゲーマーにはうってつけの職業ですね! では、カード開発を志すにあたって、求められる人材や、有利なスキルだよみたいなものはあったりするんでしょうか?

中:テスターにおいては、まずは何よりもカードゲームが好きなことが重要ですね。もちろん、カードゲームが強いほうが向いているとは思いますが、プレイが上手い人がいれば、デッキ作りが得意な人もいて、どの方向でも業務には活かせるはずです。一方で、カード以外の知識や趣味がある人も歓迎したいですね。コンシューマーゲームが好きでもいいですし、映画が趣味でもいいですし、ライトノベルやコミックをめちゃくちゃ読んでいるというのでもいい。カードゲームだけだと、どうしてもギミックがほかのタイトルの後追いになってしまうことも多いですが、そういったほかの分野からインスパイアされて、そこで新しいひらめきが得られることもありますからね。

高:僕がまさにその典型で、就職した当初はカードゲームはマイナータイトルを2タイトルくらいしかやってなくて、趣味はコンシューマーゲームがメインでした。自分の好きな分野の楽しい部分を分析できて、それをカードゲームに落とし込むならどういう表現ができるかというロジックを構築できる人はデザイナーに向いていますね。また、テスターにおいてもほかの分野の知識は武器になります、特に『バトスピ』はコラボが多いので、テスターのなかに1人でもコラボする作品が好きな人がいれば、チームで共有して作品の再現性を吟味できるようになるんです。

中:もちろんデザイナーも、自分の考えたロジックを搭載したものをデータとしてテスターに出すんですけど、一家言あるテスターが「これちょっと違いますよ」って言ってくれれば話し合いのなかで調整できます。なので、幅広い知識を持っている人がいてくれればよりうれしいですね。ただ、入ってからもそういった知識を得られる機会はもちろんあります。例えばちょうど先週、社内旅行に行ったんですよ。夜になるとやっぱりみんなで集まってゲームする流れになるんですが、そこではカードゲーム以外にもボードゲームが遊ばれていたりします。

高:ボードゲームはカードゲームと同じアナログゲームというところもあって、遊んでみるといい勉強になるんですよね。旅行先のイベントとして楽しみつつも、新しい刺激がもらえていると思います。

―先にうかがったテスター部屋の雰囲気といい、うらやましい職場ですね……(笑)。ちなみに、デザイナーが出した最初のカード案から、テスターの調整を経て商品として発売されるまで、カードの効果ってどれくらい変わったりするんですか?

高:90%は変わってます(笑)。なので、テスターの意見は大歓迎ですし、積極的に採用しています。それこそ、プレイヤーとして遊んでいて「このカード、こういう効果だったらもっといいのになぁ……」みたいな要望を直接デザイナーに伝えられて、それが反映されていく。逆に性能が変えられない部分も直接デザイナーから理由を聞けて、そのうえで改善点を出せるというわけです。

―障壁がなく自分の意見が反映されていくのはやりがいがありそうですね。それこそ、普段からプレイヤーとして遊んでいて「自分だったらこうするのに……!」という意見がある方には絶好の機会となりますね。

中:まさにテスターに向いている方ですね! 最初の「上手いプレイヤー」の話に戻りますが、上手いプレイヤーって、ただ漠然と強い人は少ないと思うんです。そこには何がしかの勝つためのプレイングがあって、ロジックが確立されているはずですよね。そういう意味で、上手いプレイヤーも求められる人材といえますね。特にデッキビルダーは貴重なので求めているところです。

高:逆に僕なんかはメインデザイナーですけど、決してプレイが卓越しているわけではないんです。逆にできないからこそ、強い効果が作れる。「僕レベルが勝つにはこれぐらいしないと」というデザインをするので(笑)。

―カードゲームってプレイヤーが全員上手なわけではないですからね。スキルが低くても楽しめるゲームはいいゲームの条件な気がします。

高:強い人しかわからないと、玄人向けの限られた人のゲームになってしまいますからね。とはいえ、スキルが勝敗に反映されないゲームも奥深さがなくなってしまうので、調整しがいのあるポイントですね。

 

●テスターはカード開発の登竜門!

―今回はテスターの募集とのことですが、デザイナーを募集することはあるのでしょうか?

中:弊社ではどの業務に携わる人も、まずはテスターから始めてもらうことが多いです。デザイナーもみんなテスター上がりですね。王道としては、テスターから入って、カードの誤植やルールミスなどをチェックする校正チームを少し経験してもらい、カードを制作する全工程を把握してもらった状態でデザイナーとしてタイトルを担当してもらう流れになります。

―カード開発の登竜門としてテスターがあるわけですね。テスターからデザイナーになるタイミングなどは設定されていたりするのでしょうか。

中:勤務年数何年で……みたいなものはなくて、新規タイトルを立ち上げたり、既存タイトルに新しいギミックを組み込んだりするタイミングで、社内コンペを開くんです。そこでみんなのデザインを持ち寄って遊んでみて、一番おもしろかったものを採用していく。そこで良いものを作った人はデザイナー候補になりやすいですね。ユニークな例だと、新規タイトルの立ち上げタイミングで入社して、3ヶ月でデザイナーに抜擢された人もいます。なので、ゲームを作りたい人はテスターからデザイナーをめざしてもいいですし、逆にテスターだけやりたい人でも歓迎します!

 

―最後に、読者へひとことお願いいたします。

中:カードゲームの制作に携わってみたい人ってそれなりにいらっしゃるとは思うのですが、弊社はこれまで一般の求人しか出していなかったので、募集をしていること自体知らない方もたくさんいらっしゃったのかなと感じています。今回、カードゲーマーが多く見られている場所でこういったお話ができたことで、これまで以上に興味を持ってくれる方が増えれば幸いです。カードゲーム制作に携わる第一歩として、みなさんのご応募をお待ちしています!

高:カードゲームの強さ以外も重要とは言ったものの、ぶっちゃけてしまうと「カードゲーマー公式web」で求人広告を出したからには、強い人が来てくれるとうれしいです(笑)。この記事を読んで「俺がもっと『バトスピ』おもしろくしてやるぜ!」という自信のある腕自慢がいたらどんどん来てほしい!

―ありがとうございました!

 

©BNP/BANDAI

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