『マジック:ザ・ギャザリング』専門店・晴れる屋の代表取締役社長を務め、自らYouTuberとして活躍するトモハッピーこと齋藤友晴氏。自身の運営するYouTubeチャンネルにブシロードの代表取締役会長・木谷高明氏が出演したことを記念に、お二人へのインタビューを決行!
コロナ禍というかつてない事態に陥ったこの1年。
木谷氏とトモハッピーの両氏に、この1年のカードゲーム業界や今後の展望などについて、たっぷりとお話を伺った。
■この1年を振り返ってみて
――本日はカードゲームメーカー側、カードショップ側のそれぞれの立場でお二人にお話を伺わせていただきます。
5月上旬現在はまだまだコロナ禍が続く状況ですが、この1年はメーカー・ショップ側から見てそれぞれどういう1年でしたでしょうか?
木谷:コロナ禍は今でも続いていますが、最初と途中と今は違う状況だと思っています。まず昨年の2月~3月の段階だと(新型コロナは)未知のものだったので最大限の警戒をしますよね。公認大会の中止に関してもブシロードは1番目か2番目くらいに早かったと思います。
それとこの時期って、実はカードの生産量を減らしたんです。でも結果的にそれは失敗でした。僕はこの状況からコレクション需要が世界的に高まるなんて想像できなかった。
トモハッピー:そうですね。その段階では僕もまったく予想できなかったですね。
木谷:でも途中でやばいって気づいたんですよ。カードゲームだけじゃなくて、あらゆるジャンルでコレクション需要が今は盛り上がってるんです。そこにもっと早く気づくべきだったと自分の中で反省があります。
――この1年って、カードゲーム業界全体の売り上げ自体は下がっていないんですよね。
木谷:昨年の3月から5月ころは落ち込んでると思うんですけど、そこ以外は落ち込んでないんですよ。むしろ前年よりいい月もあります。
トモハッピー:古物市場で見ても、市場がものすごい活性化したなっていう印象がありました。
木谷:春頃の落ち込みは日本も海外も同じで、英語版に関しては春頃は作っている工場が止まっちゃったんです。英語版の生産工場は東南アジアなんですけど、そこが止まっちゃって。だからその時期のシンガポールでの出荷は0でした。ただですよ、それ以降は実は売り上げは前年から変わっていなくてですね。
この状況で海外への出張がなくなって、それに大会も開催できませんでした。そうしたらシンガポール法人ではその費用分が浮いて利益が出始めたんです。
それももちろん商品の需要があったからこそで、それを支えてくれたのがコレクション需要だったり、Discordなどを使ったリモート対戦だったりですよね。
トモハッピー:そうですね。これまではリモート対戦といっても一部の人くらいしかやってなかったのが、一般的な遊び方になってきたのかなと思います。本当ならカードショップで遊んだり、大会に出たりといったことがができるのにこしたことはないんですけど。でも、それができないならリモートで楽しもうって。リモート対戦が広まったおかげで、この1年はカードゲームの楽しみ方の幅が広がりましたよね。
木谷:みなさん工夫して遊んでいますよね。
カードゲームに関しては、あと1年くらいならこの状況が続いても大丈夫とは思いますが、それ以上続くと大規模大会が開かれないとか、海外や各地域へのケアができないとかの問題がいろいろ出てくると思います。
カードゲームはエンタメ業界のなかでもライブエンタメに近いと考えられていましたが、そこまでダメージを受けなかったジャンルなのかなと。もちろん、最初の頃は非常に大変でしたが。
トモハッピー:コロナ禍になってブシロードさんがいち早く対策に動き出しましたよね。ショップに透明フィルム付きの仕切りを送ったり、マスクを提供したりとか。あのスピード感は驚きました。
木谷:マスクは2月中旬かな。アメリカの法人に現地で一気に買い付けてもらって。あの時期に合計6万枚くらい緊急輸入しました。
トモハッピー:あのときはスタッフがマスクをしてないとお客さんからクレームが入ったりする状況だったのに、そもそもマスクが手に入らない状況でショップが困ってましたから。うちも布マスクを買ってスタッフに配ったりしてましたけど、あの施策のおかげでショップさんが安心したり、ブシロードさんへの信頼感が高まったりしましたよね。
木谷:公認大会だけじゃなく、ライブに関してもいち早く中止を決めたんですが、その代わり再開するのも一番最初にしたいとずっと思っていました。夏に富士急ハイランドでライブを開催したんですけど、これが昨年夏に富士急で行われた唯一のライブだったんです。
トモハッピー:うちはカードゲーム中心ですが、木谷さんの場合はライブエンタメとか様々なジャンルを見ないといけないから大変ですよね。
木谷:ブシロードグループではさまざまなものを取り扱ってますけど、ほとんどがライブエンタメ寄りなんですよ。ライブエンタメももちろんですが、うちのグループでもう一つダメージを受けたものがあるんです。これは僕の趣味もあるんですけど、ブシロードのコンテンツのほとんどが「お祭りコンテンツ」なんです。みんなで頑張ろう、盛り上がろうっていうコンテンツのダメージも大きいですね。
去年『D4DJ』を立ち上げましたけど、クラブってコロナ禍とは真逆の方向性のものじゃないですか。クラブって密なところが楽しい場所なのに、情勢的にもっとも受けないものをリリースしてるわけですよね。
この1年間でヒットした作品って、いわゆる現実とは違う場所へ行ける異世界ものと、人がたくさん亡くなる作品ですよね。後者が受けている理由は、「自分はまだましかな」って思えるからだと思います。その反面、みんなで盛り上がろうっていうタイプのものは受けてないんですね。コロナ禍の影響は大きいです。
でも、みんなで盛り上がろうってタイプのものを僕は作っちゃうので。その作品の好みも時勢にあっていなくて、グループ全体がものすごい逆風を受けている状況です。
そんな中でも助けてくれたのが、カードゲームなんです。
――トモハッピーさんにお伺いしますが、古物市場が活発になったというのは例えばどういう形ででしょうか?
トモハッピー:コレクションアイテムの取引が活発になって、それに合わせて金額が上がるものも多かったですね。その反面、道具としてのカードゲーム――すぐ遊んだり、大会に出て使うためのカードだったりとかは、遊ぶ機会が減ってしまったために影響を受けました。リモート対戦も普及はしましたけど、それでも影響は出てきていて。特にここ1年の最新セットのカードは例年よりも鈍かったですね。
それと店舗への集客も減ったことで、店頭で購入するようなスリーブなどのサプライやパックなども鈍くなりました。
木谷:それは化粧品の販売が落ちたのと同じような感じですね。
トモハッピー:そうですね。外出の機会が減って化粧品や洋服にコストをかけなくなったように、対戦する機会が減ったからスリーブなどの需要も下がったっていう。
木谷:コレクションアイテムの取引が活発になったとありましたけど、それのきっかけは6月の給付金じゃないかと僕は思います。この給付金が本当に必要な人も多かったでしょうけど、「10万円をもらっちゃた」みたいな人もいると思います。
トモハッピー:ちょっとしたボーナスが手に入ったから、これで何を買おうみたいなことですよね。
木谷:あとは3月を底に株価が反転したじゃないですか。若い人でも株をやっている人はいますし、出歩かず家にいなきゃいけないっていう状況なども合わさって、コレクションにつながる要因が昨年は多かったと思います。
――コレクターアイテムというと古くて貴重なカードというイメージですが、それ以外にもこの1年で需要に変化があったカードはありますか?
トモハッピー:統率者戦っていう4人で遊ぶフォーマットが『マジック:ザ・ギャザリング』にはあって、これは麻雀のように4人でわいわい遊ぶようなフォーマットなんです。世界ではもともと人気の高いフォーマットでしたけど、日本でも近年で人気が高まってきて、コロナ禍のタイミングでそれがさらに盛り上がってきたなと。その統率者戦で使われるカードの需要も高まりましたね。これはコレクター需要とは明確に違う形での需要でした。
――『マジック』でいうと「MTGアリーナ」を使った大会や、統率者戦のイベントがオンラインも開催されるようになりましたね。
トモハッピー:そうですね。店舗でのイベントだと緊急事態宣言や情勢によって大会が再開したり中止になったりを繰り返していて。中止期間があったことで実際の大会に参加することが好きだっんだと実感するお客さんもたくさんいらっしゃいます。
カードショップでクラスターが発生したということは僕が知る限りは聞いていないので、規制でもゆるくできるところはゆるくしてほしいなとは思います。ショップ側としてはそういう気持ちなんですけど、メーカーさん側としてはどう思われていますか?
木谷:公認大会って全国で開催しているじゃないですか。ここに地域差はなかなか入れづらいというのがあります。ブシロードでは緊急事態宣言の対象地域は公認大会を中止して、それ以外の地域は開催OKということにしていますが、今後もこういった形になるのか、それとも新しい形を考えるのか。メーカーさんごとに試行錯誤をしている最中だと思います。僕としてはケースバイケースで対応していくしかないかなと思いますね。
トモハッピー:緊急事態宣言の中で完璧な正解を選ぶというのは難しいですし、逐一しっかりと判断していくしかないですよね。それでベットすることを選ぶときは、中長期的な盛り上がりを考えて大事を取っていくしかないのかなって。
木谷:そうですね。先ほど透明フィルムを使った仕切りの話しがあったじゃないですか。あれは2月の段階ですぐに作れと言ったんです。あういう仕切りを作って配布すれば、これに続いてくれるところがあると思ったんです。まずは動くことが大事なので。
トモハッピー:2月だと日本では感染者がそこまで多くなかった時期ですよね。
木谷:あの時期は中国がすごかったじゃないですか。ブシロードの中国人社員に日本はどうなると思う?って話を聞いたら、「日本でも同じような状態になると思います」って返ってきて。冷静に考えたらそうなんですよ。なぜ中国人に聞いたかというと、日本人に聞くとバイアスがあるので多分大丈夫って返ってくるんですよ。でも外からだと冷静に見ることができて、日本だけ大丈夫なんてことはないだろうと。それですぐに準備を始めたんです。
今もですけど、根拠もなく好転するんじゃないか、自分だけは違うぞ、と思うのがまずいと思います。だいたいのものごとは嫌な方向に行きますからね。
でも思ったよりはひどい状況にはなりませんでしたけど、日本の場合はこれからが本当に大変そうですよね。
先日ツイッターでもつぶやきましたけど、イベントの直前の中止が金銭的にも精神的にも一番ダメージが大きいと。例の世界的なイベントもどう判断するのかはともかく、直前の中止だけは止めてほしいと。今年の大ヴァンガ祭は約2週間前に開催中止を決めましたけど、主催者だけでなく楽しみにしていたお客さんにもダメージがきますよね。同じ中止を告知するにしても、1か月前にするのと3日前にするのでは全然違いますからね。
トモハッピー:お客さんとしても急に楽しみを奪われた感じですよね。せっかく予定を開けて、人によっては交通手段や宿まで予約していたでしょうし。
木谷:振り回されっぱなしですよ。
■コレクションアイテムとしてのカードゲーム
――先ほどコレクションアイテムの売買が活発になったと話題になりましたけど、ブシロードさんとしてはコレクター向けの商品などは展開する予定はあるのでしょうか?
木谷:もちろんありますよ。通常の構築済みデッキより高価ですけど、そのぶんスリーブなどがセットになったものなどはすでに出しています。それ以外にも今度『ヴァイスシュヴァルツ』でやりますが、2008年に出た『ヴァイスシュヴァルツ』の最初の3タイトルすべてをホロカードにしたセットを限定で販売します。これは初めてのタイプの商品なので実際に売れるかはまだわかりません。長く『ヴァイスシュヴァルツ』を遊んでいただいているプレイヤーやコレクター向けの商品で、一つの挑戦みたいなものですね。
『ヴァイスシュヴァルツ』はカードゲームでもありますが、キャラクターグッズとしての側面もあるんです。そこの部分をより尖らせたものを作るとどうなるのだろうと。
トモハッピー:遊べるキャラクターグッズとしての立ち位置をより確立させていく感じなんでしょうか。たしかにキャラクターグッズとしてみると、フィギュア一つを見てみても造形や素材にこだわった高価なものから、お手軽なものまでいろいろありますもんね。
カードゲームをタイトルごとに見てみても、シリアルナンバーがついていたり、パックから当たりカードが出てきたり、いろいろなものがありますけど、コレクションアイテムとしてのカードゲームってまだまだ新しい形が見つかりそうですね。
僕としては特別な商品を出せばそのぶん盛り上がる市場になっていると感じていますが、やりすぎてしまうと本来持っているプレミア感が薄れてきてしまうんじゃないかとも考えています。木谷さんはそのあたりはどう考えていますか?
木谷:『ヴァイスシュヴァルツ』がやろうとしているのは13年前の商品を特別な形で復刻するというもので、今ある商品とは競合していないからそこは大丈夫だと考えています。
トモハッピー:眠っている価値を引き出していく商品ということですね。
木谷:そうですね。今のカードゲームって対戦に重きをおいていると感じていて、コレクション部分ももう少し見てもらえると嬉しいですね。僕はカードの展示会とかもやってみたいんです。カードを飾って、それをみんなで眺めたりして。
『ヴァイスシュヴァルツ』では最初の5年くらいはその年に登場したカードをすべてまとめた冊子を作っていたんです。でもそれは今はやっていなくて、どんなカードが出たのかを一覧で見ることができないんです。だから14年間に出たカードをすべて並べるような展示会をやりたいんです。
トモハッピー:そんな展示会は壮観でしょうし、絶対見てみたいですね。
木谷:これからはカードゲームの裾野を広げることと、過去を振り返って新しいことを探すことにも挑戦していきたいですね。
トモハッピー:ぜひ『ヴァイスシュヴァルツ』15周年の際はそういうイベントをお願いします。僕は今まで『ヴァイスシュヴァルツ』に触れてこなかったので、どういう作品とタイアップしてどんなカードが出てきたのかをほとんど知らないんです。全部一覧で見れたら楽しそうだなって思いました。もし全カードが展示されるイベントがあったら、『ヴァイスシュヴァルツ』を知らない人でもこの歴史とカードを見て驚いてくれると思います。それに『ヴァイスシュヴァルツ』には、自分の好きな作品が何か1つは必ず登場してると思うんです。カードゲームからその作品の話をしたり、作品からカードゲームに触れてみたりとかできますよね。
木谷:そう。カードだけで終わるのじゃなく、『ヴァイスシュヴァルツ』を通じてその作品やアニメの歴史もわかると思うんですよ。
――『ヴァイスシュヴァルツ』のお話だとアジアで好調ということを聞きましたが、海外についても教えて下さい。
木谷:『カードファイト!! ヴァンガード』はアメリカで好調で、シーズンによっては第4位になることもあります。『ヴァイスシュヴァルツ』はアジアでは好調で、アメリカでも伸び始めてきていますね。以前シンガポールにいたときに、『ヴァイスシュヴァルツ』の英語版はこれから伸びると思って力を入れていたんですが、そのときは英語版で発売できるタイトルが年間4~5タイトルしかなかったんです。でも今は1年分、12タイトルを英語版で出せるんです。
これは日本のアニメが海外でも受け入れられるようになったことと、海外向けのアニメ配信のインフラが整ったことが大きいですね。日本の作品をほぼリアルタイムで鑑賞できるので、日本と同じタイミングでその作品のファンが海外でも生まれるようになったんです。そういうこともあるので、今後海外で大きく伸びるであろうブシロードのカードゲームは『ヴァイスシュヴァルツ』の英語版だと考えています。
■コロナ禍での新作カードゲーム
――この1年で『Reバース for you』をはじめいくつかのカードゲームがリリースされたり、今年秋にはアニプレックスさんが『ビルディバイド』というアニメ連動のカードゲームを発売されます。新作カードゲームが久々に活発になってきたように感じますが、その点はいかがでしょうか?
木谷:『Reバース』に関しては声優さんによる全国600か所の講習会が最初の売りでしたけど、情勢もあって400か所で止まってしまったんです。お祭りコンテンツという話を前に出しましたけど、まさにその「お祭りコンテンツ」として『Reバース』を立ち上げました。新作のカードゲームを立ち上げるというのは以前に比べると難しい状況になっていて、僕はこういう形でし思いつかなかったんですね。
『Reバース』のスタートデッキに関しては予約は非常に好調で、よしこのまま発売まで行くぞ!というところで新型コロナの流行ですよ。
トモハッピー:発売が昨年の3月ですからね……。
木谷:そうなんです。そんなタイミングだったので、実力をまだ発揮できていないと思っています。今はひたすら我慢をしていますが、コロナ禍があけたらお祭りコンテンツを全面に出して一気に盛り上げていきたいですね。
トモハッピー:正常なデータも取れない状況ですよね。既存のカードゲームだとユーザー数は見えてるわけですけど、それが新作だと本来ならどのくらいのユーザーが手にとってくれていたのかとか、そういうものがまったく見えてきませんよね。
木谷:カードゲームはコミュニティを作らなきゃいけないのに、そのコミュニティが作れない状況ですから。新作のカードゲームをリリースするならコロナが終わってからがいいですよね。
トモハッピー:新しいカードゲームをきっかけに新しい人との繋がりができて、それがゲームの財産になりますから。それが十分にできていないのは厳しいですよね……。
木谷:厳しいですね……。
トモハッピー:これは僕のイメージなんですけど、カードゲームを作るのって1年も2年も前から準備されると思うんです。そういう、すでに動いている歯車を急に変えるっていうのも難しいですよね。
木谷:そうですね。もし半年早く新型コロナが流行っていたら『Reバース』のリリースはコロナ禍が明けるまで待って、プロモーションをやり直すということをやっていたと思います。『Reバース』は3月発売だったので、新型コロナの流行を見てから発売を調整するということはできなかったんです。今年以降発売するタイトルはそこをどうされるのか気になりますね。
例えばリアルの講習会って、普通に対戦するよりも密にならざるをえないじゃないですか。オンラインでカードゲームの講習会をやるのってなかなか難しいと思うんですよ。
トモハッピー:カードゲームって、以前はいろいろなタイトルが登場していましたけど、最近は新作は落ち着いていましたよね。それでも市場規模自体は伸びているじゃないですか。市場規模的に新作のゲームを出すチャンスはあるかと思いますけど、木谷さんはどうお考えですか?
木谷:新作カードゲームは社内の稟議がなかなか通りづらいんじゃないかと思うんですよ。例えば今出すならどんなものなら売れると思いますか?
トモハッピー:パッとはイメージが出てこないですね。出すとするなら大ヒットを狙うのじゃなく、隙間産業を目指すのかなって。カードゲーム化してないものをカードゲームにしたり、メインのコンテンツのオプションとしてのカードゲームの提案とかでしょうか。
木谷:ブシロードが今まで大きくチャレンジしたものって、最初の『ヴァイスシュヴァルツ』、次に『カードファイト!! ヴァンガード』、その次が『バディファイト』です。この『バディファイト』は「妖怪ウォッチ」とアニメの時期がかぶらなければもっと数字が出たと思っています。そして『Reバース』では、声優さんとカードゲームを結びつけるというやり方をしたんですね。新しいお客さんにスタートデッキを手にとってもらうにはどうしたらいいのか。それの答えの一つがこの方法でした。
トモハッピー:声優さんにカードゲームを教えてもらえるとか、他にはない体験ができますよね。
木谷:そうなんですけど、そこに新型コロナがぶつかってきたので……。講習会をしたくてもできない。
トモハッピー:新作が昔ほど出てこない理由の一つとして、ユーザーのカードゲームを見る目が肥えてきたからっていうのもあると思うんです。しっかりしたものでないとすぐに飽きられるというか。
でも、そんな時期だからこそ伝説の『ディメンション・ゼロ(※)』のようなコアユーザー向けのものがいけるんじゃないかと思うんです。いろいろなカードゲームでユーザーの腕前も上がっているので、ガチ玄人向けのものがありえるんじゃないでしょうか。
(※ブロッコリー時代の木谷氏が手がけた日本初の賞金制カードゲーム。第1弾は2005年発売で、ゲームデザインは『カードファイト!! ヴァンガード』などの中村聡氏が担当していた)
木谷:『ディメンション・ゼロ』なら基礎票はすでにありますからね。この基礎票があるかないかが新規コンテンツでは非常に重要なんです。「バンドリ!」のときも最初の基礎票を重要視していて、ゲームやアニメを始める2年前にはライブなどをやりました。これは先に5000人~1万人のインフルエンサーや基礎票を作るためだったんです。『ディメンション・ゼロ』はすでに基礎票もあるので、2000~5000人がインフルエンサーになりえると思っています。
トモハッピー:実際のところ、カードゲームに影響力を持っている人たちでも『ディメンション・ゼロ』を楽しんでいたという人が結構いますから。
木谷:その人たちが基礎票となって『ディメンション・ゼロ』を広げていけば、全国に1万人くらいのコミュニティが生まれると思いますし、そのくらいのコミュニティができれば十分にカードゲームとしても継続できると思いますね。
トモハッピー:ほかにも20~30代に向けた既存タイトルの玄人版とかも見てみたいですね。『カードファイト!! ヴァンガード』は3月に『カードファイト!! ヴァンガード overDress』と一新しましたけど、これは遊びやすくなったということですか?
木谷:24のクランが5つに統合されたりして、遊びやすくはなったと思います。10年前の第1弾の頃と比べるとゲームとしては難しいとは思いますが、1~2年前の環境と比べると、簡単にゲームをプレイできるようになっていますね。
――『overDress』で遊びやすくなったとのことですが、新規プレイヤーや復帰プレイヤーの割合はどのくらいを目指しているのでしょうか?
木谷:プレイヤー全体で見ると、2~3割が復帰組で、1~2割が新規になるかなと想像しています。新規プレイヤーを呼び込むのは非常に大変なので、入ってきた人たちが続けて遊んでもらえるようにしていきたいですね。
今は新規プレイヤーを獲得するのが難しい状況ですけど、カードゲームというマーケットは大きいのでそこにチャンスは必ずあるわけですよ。
■エンタメとブランド
トモハッピー:ブシロードさんのカードゲームは3タイトル(『ヴァイスシュヴァルツ』『カードファイト!! ヴァンガード』『Reバース for you』)ともランキング10位内に入っていたりして、売れていますよね。
木谷:3タイトルとも頑張ってくれていますね。少し話は変わりますが、エンタメって実は保守的なんですよ。ここ20年くらいを見てみると、新しい出版社や音楽会社、玩具会社などで大きくなったところってほとんどないんです。スマホゲームの会社は別ですけど。そんな状況だから、新しいカードゲームメーカーが立ち上がらないのも当たり前といえば当たり前なんです。エンタメというのはブランドが大事なんですよね。
トモハッピー:たしかに。カードゲームを見てもブランドってどうしても注目しますよね。どういうゲームなのかも大事ですけど、どこが出すのかも大事ですよね。カードゲームは続いてくれないと熱が入り切らないですから、ブランドとしてのタイトルやメーカーってユーザーは見てますよ。
木谷:小売りでもブランドって大事ですよね。同じカードゲームを扱っているお店が複数あるなかで、どこを選ぶのかって。晴れる屋さんがここまで大きくなったのって、新しいコンセプトを提供し、それが受け入れられたからだと思うんです。
トモハッピー:カードゲームの売買って、個人でもできるほどハードルは低いんです。カードショップ自体も小さいスペースや通販専門から始めることもできますし。そこにどう特色を出していくのかは意識する必要がありますね。
カードゲームを出すにあたっても、同じようなものを出すとただただ不利になっちゃいますし。
――晴れる屋さんは秋葉原に『ポケモンカードゲーム』の専門店の「晴れる屋2」を6月にオープンされますよね。『マジック』専門店ではない、新たなジャンルに進出したということで、今後新たにブシロードのカードゲーム専門店を開店させるということもあるのでしょうか?
トモハッピー:もちろん可能性はあります!
「晴れる屋2」と名付けたのは、その後「3」「4」「5」と続く期待感を持っていただきたいからなんです。今の晴れる屋は『マジック』にしか貢献していなくて、もっとカードゲーム全体に貢献したいと思ったときに総合店というのも考えました。でも、うちが総合店をやるのはなにか違うなって。総合店にするならどこが強みになるのかって考えても、特に答えがなかったんです。
それなら単一タイトルの専門店にすべきだろうと思って、晴れる屋2を『ポケモンカードゲーム』の専門店にしました。「晴れる屋3」や「晴れる屋4」を作るにあたって『ヴァイスシュヴァルツ』や『カードファイト!! ヴァンガード』、『Reバース』を扱うのかはまだわかりませんが、どのタイトルが盛り上がっているのか、専門店が成り立ちやすいのかなどを検討していきます。
まあ、まだ『マジック』でしか実績がないので目下のところは晴れる屋2で次の実績を作ってからですけど(笑)。
――木谷さんは単一タイトルの専門店というのはどう見られますか?
木谷:もしその地域にカードゲームショップが1店舗しかなかったら、総合店しかありえないと思います。これが秋葉原のような場所なら違いますよね。飲食店ってなんでもあるお店もあれば、そば屋や寿司屋のように専門店もあるんです。それと同じように地域や客層に合わせて総合店と専門店が共存していくのが理想だろうし、そう考えると単一タイトルの専門店というのは都市部においてはもっとあってもいいのかなと思います。
トモハッピー:今は専門店が少ないので、相対的に優位性があるかなと思います。でももっと専門店が多いといいバランスになるのかなって。ただ、専門店の場合はそのタイトルへの依存度が高いので怖いところはありますよね。
木谷:カードゲームはいつが一番盛り上がるかっていうと商品の発売日なんです。専門店が増えない理由の一つは、その発売日の機会が減ることがあると思います。発売日があまりないということはお客さんが来店する動機も減ってしまうので、それを補うために中古販売や大会運営に力を入れるということになりますよね。
トモハッピー:総合店よりもテクニカルなショップ運営方法が必要になりますよね。これが総合店の場合は来店機会がおのずと増えるわけですし、たくさんのタイトルを扱ったほうがフランチャイズや支援サービスなどもデータも効率的に受けられますから。
単一タイトルの専門店というのは現状少なくて、それだけ難しいところがあるということなんです。でも、だからこそ専門店を作るぞってなったときは、そのタイトルが好きなスタッフが集まってくれるのかなとも思います。
木谷:専門店のメリットは、いろんなカードゲームのルールを知っているスタッフを揃える必要がないということですね。知っているのは一つのカードゲームだけでいいので。
トモハッピー:店員もお客さんも全員が同じカードゲームを知っているので話しやすいですし、コミュニティが形成しやすいっていうのもありますね。
――それでは最後に、コロナ禍が明けたあとに挑戦してみたいことなどを教えて下さい。
トモハッピー:今は「3年間で100店舗・47都道府県への出店」を目標にたくさん店舗を増やして最中です。ただ、イベントを毎日行うことを前提にショップを増やしているんですが、それが思うようにできない日々が続いています。ですから、コロナ禍が明けたら店のスペースだけじゃなく、外の会場などを借りてイベントをやっていきたいですね。そのためにできる準備をまずは続けていきたいと思います。
木谷:まずはコロナ禍でできなかったことですね。一番は2年連続で中止になった大ヴァンガ祭やしろくろフェスを盛大にやりたいと思います。あとは海外出張ですね。先日もアジアや東南アジアのディストリビューターとオンラインで話しましたけど、非常に嬉しそうだったので、日本全国や世界の問屋さんやショップに顔を出して直にコミュニケーションを取りたいなと。ブシロードのカードゲームが好きな世界中のプレイヤーに対しても、日本に集まって行う世界大会もできていないので、そういったこともきちっとやりたいですね。
あとは先程の『ディメンション・ゼロ』も試してみたいですね(笑)。
トモハッピー:じつは木谷さんとちゃんと話す機会を頂いたのは今日が初めてなんです。以前に一度お会いさせていただいたこともあるんですけど、それが15年くらい前の『ディメンション・ゼロ』の大会会場だったんですね。そのころは一プレイヤーとしてお話しさせていただいたんですが、今日はこういうふうにお話をたくさん聞くことができて、非常に光栄でした。
木谷:こちらこそ、ありがとうございました。