『FF-TCG』開発スタッフインタビュー:八十岡翔太氏に聞く『FF-TCG』のデザイン

『FINAL FANTASY Trading Card Game』の公式記事連載。今回は、ホビージャパンの『FF-TCG』開発担当である八十岡翔太氏に、『FF-TCG』のゲームデザインなどについてインタビューを行ないました。

皆さん、こんにちは。カードゲーマー編集部の編集(川)です。
本日の記事では、いつもの攻略から少し離れて、『FF-TCG』を作っているスタッフのインタビューをお届けします。『FF-TCG』プレイヤーの皆さんに、『FF-TCG』を開発しているチームはこんなことを考えているということをお伝えできればと思います。

今回、インタビューをさせていただいたのはホビージャパンのゲーム開発課に勤める八十岡翔太氏です。

八十岡 翔太(やそおか しょうた)
ホビージャパン、ゲーム開発課所属。
『FF-TCG』や『WIXOSS-ウィクロス-』といったホビージャパンの展開するカードゲームのデザインを手がけるクリエイターとして活躍中。
また、カードゲームプレイヤーとしてもトップクラスの実力を持っており、今もなお現役選手として世界で戦っている。プレイヤーの間では「ヤソ」の愛称で親しまれている。

 

◆『FF-TCG』のカードデザインは1人で担当している

――八十岡さんは『FF-TCG』の開発に、どういった立場で携わられているのでしょうか。
八十岡:いまの「Opus」シリーズ、かつての「Chapter」シリーズで共通してカードデザインの全般をやらせてもらっています。1つのセットを作るにあたり、まずプロデューサーの景山を中心に「どのタイトルを入れるか」「そのタイトルからどのキャラクターを収録するか」といった、そのセットの一番の大枠を設定します。その次に僕がセットに収録されるカードの能力を考えていきます。
――1つのセットにはおおよそ150枚くらいのカードが収録されますが、これを八十岡さんをリーダーとするチームでデザインしているのでしょうか。
八十岡:いえ、カードの基本的なデザインは僕1人でやっています。もちろん、そのあとでカードの能力を調整していくのはデベロップのチームとの共同作業になりますが、最初は1人で全部のカードを考えています
――それは大変な作業量になりそうです。
八十岡:たしかに大変は大変なのですが、『FF-TCG』の場合は複数人でデザインを始めることにもデメリットがあるんです。たとえば属性別に担当者を分けてカードを作っていったとして、デザインが終わってみたらあるタイトルのキャラクターがフォワードばかりになっていたとか、逆にタイトルごとに担当者を決めて作ったらセット全体のフォワード、バックアップ、召喚獣、モンスターの枚数の比率がおかしくなってしまったというように、やり直しの手間が発生してしまうことも考えられます。カードの初期デザインを1人で行なうことでそういったロスをなくせるので、今はこの体制を採用しています。
1人の人間が作り続けていると視野狭窄的になってしまうのでは、と思われる方もいるかもしれませんが、デザインを始める前にほかのスタッフから「このキャラクターにはこういうアビリティを持たせたい」と意見を募っておけば、僕1人では思いつかなかったアイデアもカードに反映させられますし、もちろん、そのあとの調整で効果やアビリティが変わることもよくあります。


――1人で初期デザインを行なうことで、まずセット全体の統一感とでもいうべきものを形成してそこからさらに内容を充実させていく、という手順が取られているわけですね。いまお話に出た「その後の調整」にも八十岡さんは関わられているのでしょうか。
八十岡:はい。デザインだけでなくデベロップにも参加して、カード1枚1枚のテキストが決まるまで見続けています

◆「Chapter」シリーズと「Opus」シリーズをデザインするなかでの意識

――『FF-TCG』はかつて「Chapter」シリーズとしてリリースされ、一度展開が休止したあとで「Opus」シリーズとして再開されました。「Opus」シリーズの制作にあたって「Chapter」シリーズから変えようと意識したことがあればお話しください。
八十岡:フォワードをブレイクできる召喚獣をやや弱くしたことなど細かい変更はたくさんありますが、それらの背景として共通しているのは「キャラクターを並べて戦うゲームにしよう」という点です。「Chapter」シリーズの制作時は、とにかく「おもしろいゲームを作ろう」という意識が強かったのですが「Opus」シリーズの制作では、それに加えて「『ファイナルファンタジー』シリーズのファンアイテムを作る」ということを重視しています。
「Chapter」シリーズ当時は、お互いに除去をしあった結果、フィールドにどちらかのプレイヤーのフォワードが1体だけ残って、それが少しずつダメージを稼いでいって決着するという展開も少なくありませんでした。しかし「Opus」シリーズではしっかりとフォワードを並べ、誰でアタックするか、誰でブロックするかを考えるのが重要なゲームになりました。この点が「Chapter」シリーズと「Opus」シリーズの一番大きな違いだと思います。

――その点以外にも意識されていることはありますか。
八十岡ゲームとしての不必要な複雑さをなるべく減らすことを意識しています。具体的にいうとテキストで説明できることは、極力キーワードにまとめてしまわないことなどです。「Chapter」シリーズにあった「リンク」や「レベルアップ」、「覚醒」といったアビリティはいずれも「Opus」シリーズでは個々のテキストで効果を説明しています。

たとえば【2-034R】《ザルガバース》は、今はフィールドに出たときのオートアビリティで、手札から氷属性の以外のフォワードを出せると書いてありますが、「Chapter」シリーズの《ザルガバース》には「リンク―氷(3)/火(3)」と書いてあるだけです。これでは、たとえばお店で『ファイナルファンタジー』のカードゲームがあるからというだけでブースターパックを開けた人には暗号のようなテキストになってしまいます。こういった部分をわかりやすくするのも「Opus」シリーズで気をつけていることの1つです。逆に「バックアタック」のような直感的にわかるものは増やしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以外ではサーチ能力を持ったバックアップの充実も『ファイナルファンタジー』のファンアイテムであることを意識しての施策といえます。カードゲームプレイヤーはレジェンドのカードを3枚そろえるのも当然と考えるかもしれませんが、カジュアルなプレイヤーはそうではありません。サーチカードを充実させることで、高レアリティのカードを1枚しか持っていなくてもしっかりゲーム中に登場させられます
――サーチカードが増えたのは、たしかに「Opus」シリーズの特徴と言えそうです。プレイヤーとしてはデッキが回りやすくなりつつも、よりバックアップの配置に気を使うことが増え、悩ましい部分でもあります。
八十岡:1つの属性のフォワードのパワーを上げるバックアップも風属性の【1-083H】《マリア》を含めて「Opus I」から全属性にいますからね。5枚のバックアップをどう並べるかは、悩んでみてくださいとプレイヤーの皆さんに託している部分です(笑)。

――それ以外に「Opus」シリーズで変わったと思ったのは、「Chapter」シリーズで光、闇属性だったカードがほかの属性に移っていることがあるかと思います。
八十岡:それも、先ほどのわかりやすいゲームを目指した結果の1つです。光、闇属性のカードはデッキに複数投入しづらいのですが、「Chapter」シリーズでは数がちょっと多すぎました。「Opus」シリーズでは光、闇属性のカードの総数を見直して【2-147L】《皇帝》や【3-154S】《ジタン》のような汎用性の高いもの、【3-153S】《エース》や【4-145H】《クラウド》のような複数の属性にまたがるデッキでキーとなるものを光、闇属性に配置することにしました。それ以外のものは必要に応じてほかの属性に移しています。
――「Chapter」時代からのプレイヤーとしては、この変化はとてもうれしかったです。
八十岡:この変更によって、結果的に【1-155R】《ウォーリアオブライト》や【2-129L】《セシル》などはだいぶ使いやすくなったのではないかと思います。

◆デザイナー八十岡氏のお気に入りカードは?

――「Chapter」から「Opus」になって、あるものはそのまま、また別のあるものは新しい属性やアビリティを与えられて登場していますが、八十岡さんのデザインしたなかでお気に入りの1枚はなんでしょうか。
八十岡:昔からあるカードであげるならば、一番は【1-080H】《バッツ》ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビリティ自体は非常にシンプルなものですが攻防に使い道があり、自身も風属性のなかでは最大級のパワーを持っています。「風単」デッキでは彼を入れない構築というのは考えられないほどですが、それでいて強力すぎるというわけでもないバランスに収まっていると思います。
――0~1コストでフィールドに出せたときは何ともいえないお得な感覚が味わえます。
八十岡:【4-055H】《カヌ・エ・センナ》をはじめ【1-080H】《バッツ》をベースに作られたカードもたくさんあります。風属性のあり方を体現しているカードといえる1枚ではないでしょうか。

――ほかにはどんなカードがありますか。
八十岡:【1-080H】《バッツ》と似た視点でいうなら【1-142R】《ライトニング》も好きなカードです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘイストによる速攻とダルによる妨害はどちらも雷属性が得意とする行動ですが、このカードはそれを1枚で同時に行なえます。アタッカーが増えてブロッカーが減るわけですから、いいタイミングで登場したときの存在感はとても大きいです。唯一、カード名が《ライトニング》であることが欠点でしょうか(笑)。
――「Opus」シリーズで新たに作られたカードのなかではどうでしょうか。
八十岡:新しいカードのなかでは【3-030L】《クジャ》が気に入っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーム後半になってCPに余裕があるときにアビリティを両方使ってもいいですし、片方のアビリティを使いながらほかのカードで追い打ちするのも有効で、CPの使い方を広げてくれるカードです。フィールドに出たときのオートアビリティではないので、どんな状況でも強いわけではないという点もよくできたかなと思います。

――その一方で、世に出そうとしたけれど調整の段階でボツになったものなどもたくさんあるのでしょうか。
八十岡アナログのカードゲーム向けでないアビリティはボツになりやすいですね。
――具体的にはどういったものがこれまでボツになってきましたか。
八十岡:たとえばターン終了時になくならない強化効果、永続的にパワーを+2000するとか、先制攻撃を与えるといったものです。
――ほかのカードゲームではサイコロを使ったり、目印となるマーカーを置くなどでそういう効果を表現していますね。
八十岡『FF-TCG』ではそういったアイテムを使わずにゲームをするようにデザインしているので、なんとかテキストで表現できないかと思って提案は何度かしているのですが、今のところ実っていません。また、大会などのときに「3ターン前にこのアビリティを使ったんですが」と言われてもジャッジが確認できないといった問題もあります。
――大会への影響なども考えてカードは作られているのですね。

◆盗めない源氏装備、スノボにバイクに潜水艦。八十岡氏の好きな『FF』を聞く

――『ファイナルファンタジー』のカードゲームを制作されているわけですが、八十岡さんが好きな『ファイナルファンタジー』のタイトルはなんですか。
八十岡一番好きなのは『ファイナルファンタジータクティクス』ですね。遊べば遊ぶほどやりこみ要素があって、何度も周回しました。もちろんエルムドアから源氏装備を盗もうとして何時間、何十時間とチャレンジしました(笑)。ゲームシステムも秀逸ですが「イヴァリース」という世界を舞台にしたあのストーリーにも引き込まれました。主要な登場人物から脇役まで、全員味があるキャラクターで、どこか人間らしい腹黒さとかがあって。ゲームとしてもシステムを使いこなせるようになるまではなかなか難しくて、ウィーグラフ戦(編註:『ファイナルファンタジータクティクス』のなかでも屈指の難易度を誇るストーリーボス。直前にセーブをしてしまうと、やり直してもクリアできず詰んでしまうこともあるほどだった)などは、最初負けイベントかなとも思いました。正体を現してくれれば楽になるのですが(笑)。
――ウィーグラフやセリア、レディなどのカード化を望んでいるプレイヤーも多いと思うので楽しみにしています。ほかにお気に入りのタイトルなどはありますか。
八十岡:『ファイナルファンタジーVII』もやりこみましたね。『FFVII』は「インターナショナル版」になるまでは、いわゆる隠しボス的なものがいなかったのでマスターマテリアを作ったり、ゴールドソーサーにあるスノーボードやバイクのミニゲームでハイスコアを延々と狙っていました。
――それも、私たちの世代では「あるある」ですね(笑)。

『FF-TCG』ユーザーへのメッセージ

――では最後に『FF-TCG』ユーザーにメッセージをいただけますか。
八十岡:かつて一度展開が終了してしまった『FF-TCG』ですが、「Opus」シリーズは末永く続く作品にしたいと思っています。プレイヤーの皆さんには存分に好きなカードを使って楽しんでもらえればうれしいです。デザイナーとしておもしろいカードを作って飽きさせないようにしますので、これからも『FF-TCG』をよろしくお願いします。
――ありがとうございました。