『FINAL FANTASY TRADING CARD GAME』の公式記事連載。今週は2019年世界王者Kurosawaさんの「バリュエーション」解説コラムの後編をお届けします。
◆はじめに
こんにちは、『FFTCG』プレイヤーのKurosawaです。
今回も『FFTCG』においてカードを正しく評価するための技術「バリュエーション(Valuation)」についてお話ししていきます。
なお、この記事は前後編の記事の後編となりますので、前編をまだ読んでいないという方はまず前編から読んでいただければと思います。
前回の記事では、
・カードを正しく評価するためにはコストとリターンの数値化が重要
・数値で表されているコストに対して、リターンはそうではないため「バリュー」と「安定性」の概念を導入して数値化する
・リターンを構成する要素の一つである「バリュー」とは何か
といった内容をお届けしました。
その続きとなる今回は、
・リターンを構成する要素「安定性」とは
・対戦中のバリュエーション
・再びデッキを考えてみる
という構成でバリュエーションについて解説していきます。
◆リターンを構成する要素「安定性」とは
それでは、さっそく安定性について考えていきたいと思います。
記事前編で、安定性とはそのバリューが発揮されることの確からしさだと述べました。
つまり、安定性とは何らかの条件が満たされる確率ということです。
ただ、カード単体ではその数値がいくつになるのかはわからないので、デッキや対戦中の盤面に目を向けてみる必要があります。【4-048L】《ロック》を例に取れば、このカードがフィールドに出たときのオートアビリティが誘発するか否かはデッキ内の【カテゴリ(VI)】であるキャラクターの枚数や、フィールドに何をプレイしているかによるということですね。
これを厳密に計算しようとすると、さまざまな状況を想定したシミュレーションをすることになります。
例えば【4-026H】《ガストラ帝国のシド》を引けているかどうかで【4-048L】《ロック》をフィールドに出したときのオートアビリティの誘発させやすさは変わりますよね。
【4-048L】《ロック》の安定性について考えるために、まずは【4-026H】《ガストラ帝国のシド》の安定性を考えて……とやっていくのはなかなかに大変です。
しかし、確率といっても“リターンを把握する”という目的からすると、ざっくりどのくらいなのかがわかれば十分な場合が多いと考えられます。
そこで、よく使用するのが「50枚のデッキに特定のカードがある枚数入っているときに、デッキの上から任意の枚数を見て、そのカードが何枚含まれていると考えられるか?」という指標です。
このような、ある要素を抜き出した指標であれば、個々のカードの安定性を計算することなく全体の安定性を把握することが可能となります。
この指標のもっともわかりやすい例が【9-014L】《ネール》でしょう。
「ネールがフィールドに出たとき、デッキの上から3枚公開する。その中からフォワードを最大2枚まで手札に加え、残りをブレイクゾーンに置く。」というオートアビリティを見てみましょう。デッキが50枚でフォワードの枚数が27枚だとすると、【9-014L】《ネール》で1枚以上手札に加えられる確率は何パーセントでしょうか?
上のグラフは横軸が「デッキ内の特定カードの枚数」、縦軸が「50枚デッキの上から3枚見たときに特定カードが見つかる枚数ごとの確率」を示しています。
横軸が27のところを見ると、0枚は9パーセントですので【9-014L】《ネール》で1枚以上手札に加えられる確率は100-9=91パーセントとなります。
ここで「【9-014L】《ネール》を引いている前提なら、デッキ内のフォワードは27枚より少ないでは?」とか「1ターン目には少なくとも初手5枚+ドロー1枚を引いているので、デッキの枚数は残り44枚以下なのでは?」と考えた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、繰り返しになりますが、厳密な計算が目的ではないのでそこまで細かく考える必要はありません。
ただし、バリューが発揮されることの確からしさを調べてカード間での比較をすることが目的なので、どのカードも同じ条件(この場合であればデッキの残り枚数ですね)で見積もることは重要です。
ではもう一つ、【4-048L】《ロック》を例としてみましょう。
「ロックがフィールドに出たとき、あなたがロック以外の【カテゴリ(VI)】のキャラクターを2体以上コントロールしている場合、対戦相手は手札を1枚捨てる。」では太字の部分にオートアビリティが誘発するための追加条件が書かれています。【4-048L】《ロック》のリターンを考えるうえで、この条件の達成されやすさを明らかにしておくことは重要です。
実際に【4-048L】《ロック》を出す場面を考えてみると、2ターン目に条件を達成していれば無事に活躍できそうです。ゲーム序盤ということで、【4-048L】《ロック》以外に使用するカードはバックアップを想定しましょう。
デッキ内の【カテゴリ(VI)】のバックアップが12枚とすると、初手の5枚+2ターン目までのドロー4枚(後攻の場合)の計9枚のなかにそれらが2枚以上あれば条件達成と考えられます。さて、確率はいくつになるでしょうか?なお、ここでは《一般》アイコンを持たない同名カードの重複は無視します。
上のグラフは横軸が「デッキ内の特定カードの枚数」、縦軸が「50枚デッキの上から9枚見たときに特定カードが見つかる枚数ごとの確率」を示しています。(6枚以上の確率は割愛しています。)
横軸が12のところを見ると、0枚の確率は7パーセント、1枚の確率は23パーセントなので、【4-048L】《ロック》さえ引いていれば100-(7+23)=70パーセントで条件を達成できると考えることができます。
ここまで、安定性のざっくりとした見積もり方を説明してきました。
「50枚のデッキに特定カードがある枚数入っているときに、デッキの上から任意の枚数を見て、その特定カードが何枚含まれているか」といったような抽象化した概念については、一度計算しておけば使い回しが利くこともご理解いただけたかと思います。
オマケとして、以下に7枚見る場合と5枚見る場合の図も載せておきますので適宜ご活用ください。7枚見るカードには【9-003L】《エース》、5枚見るカードには【9-023R】《キスティス》などが該当しますね。
以上、リターンについて下図のようなバリューと安定性の2つの軸で表現できることを説明しました。
カードを比較して、より右上に近いカードほどコストに対するリターンの効率が高いと考えられますので、これをデッキ構築の際の選定の判断基準とすることができそうです。
図中の番号で言うと、1のカードはデッキにもっとも入れたいカード、2と3のカードはデッキのコンセプトなどによって使い分ける可能性があり、4のカードはなるべく入れないというところです。
なおバリューと安定性がわかると、リターンの期待値やリスク(分散)も計算することができます。これ以上は『FFTCG』のテクニックではなく統計学の分野になりますので細かくは触れませんが、興味のある方は調べてみてくださいね。
◆対戦中のバリュエーション
前節ではデッキ構築に注目してバリュエーションを考えてきましたが、ここでは対戦中のバリュエーションについて考えていきます。
対戦中は実際の状況が目に見えているため、デッキ構築時における仮定を多く含んだバリュエーションよりも実質的な価値の判断が可能となる点がポイントです。
では対戦中のバリュエーションについて、以下のようなシーンをサンプルに解説していきましょう。
自分が「氷雷」、相手が「火氷」での対戦ですね。
相手が後攻2ターン目に出してきた【4-048L】《ロック》で手札を1枚捨て、自分が先攻3ターン目のドローをして第一メインフェイズを迎えたところですが、ここからどのようにプレイするでしょうか?
【4-048L】《ロック》を選んで【7-103C】《ラムウ》を召喚するケースを考えてみると、以下のようなバリュエーションが可能です。
1.【4-048L】《ロック》がフィールドに出たときのオートアビリティでこちらは手札を1枚捨てている= 2CP損
2.【4-048L】《ロック》の3CPと【7-103C】《ラムウ》の4CPを交換する = 1CP損
3.上記をまとめると合計3CP損
この結果を見ると、3CP損してしまうこのプレイは悪手に見えます。
では、手札の【3-099R】《アンジールペナンス》や【11-133S】《ケットシー》をフィールドに出すケースではどうなるかも考えてみましょう。
これらの場合は返しのターンにアタックしてくる【4-048L】《ロック》を止められず、手札を捨てさせるオートアビリティでさらに2CP損してしまい、損失がさらに累積していくことがほぼ確実となります。
このように、対戦中であればデッキ構築時にはリターンを把握しにくかった「【4-048L】《ロック》が対戦相手にダメージを与えたとき、対戦相手は手札を1枚捨てる。」のようなアビリティもバリュエーションが可能となります。なお、なぜ【3-099R】《アンジールペナンス》でブロックしないかについても、バリュエーションで説明可能です。
1.【4-048L】《ロック》がフィールドに出たときのオートアビリティで手札1枚を捨てた=2CP損
2.【3-099R】《アンジールペナンス》をフィールドに出す
3.続く相手の後攻3ターン目に【4-048L】《ロック》のアタックを【3-099R】《アンジールペナンス》でブロックすると、相手は【8-005C】《エドガー》を使用 (相手が1CP損) して【3-099R】《アンジールペナンス》がブレイクされる (4コストのフォワードなので4+2でこちらが6CP損)=5CP損4.上記をまとめると合計2+5=7CP損
つまり、例に挙げたシーンでは【7-103C】《ラムウ》を召喚するプレイは相対的に損失が最も小さくて済むという観点から、悪手ではないということが確認できます。
実際の対戦においては自分がどのくらい得をするかという場面だけでなく、どうあっても自分が損をする場面もよくあることです。このような場面でも、バリュエーションを活用すれば可能なかぎり損失を抑えるようにプレイすることができます。
次に、上記の例をさらに深掘りして【7-103C】《ラムウ》と【11-133S】《ケットシー》の両方を使用するケースも考えてみましょう。
バックアップをフィールドに出せば毎ターンCPを回収できるので、一刻も早く出したほうがリターンは高まると言えそうです。ただ、この場合は手札が0枚になります。バックアップから毎ターン1CPを回収できるのは事実ですが、対戦中はもう一つ考慮すべきことがあります。それは、次のターン以降のプレイの選択肢が減ることに付随するデメリットです。
具体的には手札が0枚なので、次のターンにバックアップから発生するCPの使い道があるかどうかがドローに依存してしまうということです。
ここでは1ターン早くバックアップを出すことによる1CPの得と引き換えに、不確実ながら最大5CP損する可能性があることを天秤にかけて、より総合的にリターンが高いと考えられるほうのプレイをするべきでしょう。
自分のデッキに5コストの強力なフォワードがいるならバックアップを5枚にしておく意味は大いにあると言えますし、4コストのカードがたくさん入っているなら、それらを2枚引けば4枚の手札と4枚のバックアップから4コストのアクションを無駄なく2回できるので【11-133S】《ケットシー》を急いで出す必要はあまりないかもしれません。
この考え方はバックアップ以外にも適用できます。
フォワードを例にしてみると、『FFTCG』では7点目のダメージを受けると敗北するルールとなっていますが、これは相手のアタックをブロックしなくてもよい権利が6回分あるとも考えられます。
そして、この権利も有限かつお互いに平等なリソースです。相手のリソースを効率よく失わせることをよしとするならば、フォワードはできるだけ早く出してアタックしたほうがよいということになります。
カードは基本的には早めに使用することにインセンティブがあるのです。
ただし、ゲームが進むごとに使用できる総リソースは増えていくため、早いターンでのフォワード展開は以降のターンにおいてプレイの選択肢が減るというデメリットとトレードオフになります。この「早く展開するリターン」と「選択肢が減ることによるデメリット」のバランスに目を向けてプレイすることが重要です。
こういったさまざまな判断を下すための道筋を作るのが対戦中のバリュエーションです。
◆再びデッキを考えてみる
ここまで、デッキ構築と対戦でのバリュエーションについて、それぞれ説明してきました。
技術としては同じであっても、適用可能な範囲や仮定には多少の差があることがご理解いただけたかと思います。
ただ、もっとも知りたいのは実戦でどのカードがどのようなリターンを生むかなので、デッキ構築の段階においても対戦と同じようなバリュエーションができることが理想です。
最後に、デッキ構築におけるバリュエーションの応用例を紹介しておきます。
記事前編でお話ししたデッキ構築におけるバリュエーションでは【11-090L】《クジャ》については4CP・パワー8000で基準値相当、オートアビリティで5CP得なので、合計5CP得としていました。
しかし「Opus XI」環境では4CP・パワー8000・アビリティはおまけ程度というフォワードも、【11-090L】クジャのオートアビリティの対象として仮定している3CP・パワー7000・アビリティはおまけ程度というフォワードもあまり見ることがありません。
対象となるのは【10-127H】《シトラ》や【3-056H】《ジタン》など、相手から見て2CP得のフォワードが多いと考えられます。
つまり、オートアビリティは5CPではなく実質3CP得と見積もるのがよさそうです。また、パワー8000のフォワードのコストについても、実質1CPでパワー7000の【10-127H】《シトラ》のようなカードが多いなら1CP=パワー1000の法則により2CPが基準値ということになります。
まとめると【11-090L】《クジャ》についてはカードに書かれている数値上は5CP得するカードなのですが、「Opus XI」環境では4CP・パワー8000なので実質的な基準値よりも2CP損、オートアビリティで3CP得なので、合計すると1CP得するフォワードということになります。
当初の数字とは異なる評価になっていますが、これは基準値を「Opus XI」環境に変更してバリューの計算を行なっているためです。
環境的によく見かけるカードを元に基準値を決めた場合、よく見るカードを損得ゼロにしていることになるので、そのうえでバリューが正の数になれば効率よくリソースを獲得できるとみなせます。雑に言い換えるなら、強いカードにぶつけてもなお得できるカードであるということですね。
基準値を変更したバリューの計算を行なう際は、対象となるカードごとに基準値が変わらないように注意が必要です。基準値がそろっていないと正しい比較ができません。
対戦中の経験を元にすれば、デッキ構築の段階でより正確なバリュエーションができるようになります。買い物上手になるためには相場に詳しくなる必要があるということですね。
そして、その結果を元に構築したデッキでの対戦を通じて、そのバリュエーションが正しかったか否かを確認することも重要なので忘れないでくださいね。
◆おわりに
2回にわたって「バリュエーション」という『FFTCG』の基本的な技術を説明しました。
基本ではあるものの、正確に、そして素早く行なおうとすると意外と奥が深く、私も1人のプレイヤーとして長く向き合い続けているテーマです。
ぜひ、皆さんもデッキ構築や対戦での実践を通じて「バリュエーション」の技術を身につけていってください。
昨今の情勢により、対戦の機会を見つけるのが難しいという方は『FFTCG』のDiscordサーバー?もチェックしてみてください。オンライン上でのフリー対戦や大会形式の『自宅名人戦』への参加ができますので、自宅でも気軽に『FFTCG』を楽しむことができます。
この記事が少しでも読者の皆さまのご参考になれば幸いです。それでは、また次回の記事でお会いしましょう。
よい『FFTCG』ライフを!