『FINAL FANTASY TRADING CARD GAME』の公式記事連載。今週は2019年世界王者のKurosawaさんが強豪プレイヤーの思考法「バリュエーション」について解説します。
◆はじめに
こんにちは、『FFTCG』プレイヤーのKurosawaです。
今回は『FFTCG』における基本的な技術である「バリュエーション(Valuation)」を紹介したいと思います。
バリュエーションとはカードを評価することです。
これはデッキ構築やプレイングの基礎となる技術なのですが、実は詳しく解説した記事がこれまであまりなかったということで筆を執ることにしました。
なお、この記事は「MASTERS」などの競技イベントで勝ちたい、勝ち越したい、将来的には優勝したいという方が一歩踏み出すための足場として考えています。ベテランプレイヤーの方には物足りない内容になるかもしれませんが、復習のような感じで読んでいただければと思います。
また、この記事は前後編になっています。前編となる今回は、
1.なぜバリュエーションが必要なのか
2.リターンを「バリュー」と「安定性」で考える
3.リターンを構成する要素「バリュー」とは
このような章立てでお話しし、来週お届けする後編では
4.リターンを構成する要素「安定性」とは
5.対戦中のバリュエーション
6.再びデッキを考えてみる
という内容をお届けします。
少し長くなりますが、お付き合いいただければ幸いです。
それでは、始めていきましょう。
◆なぜバリュエーションが必要なのか
最初に、なぜバリュエーションが必要なのかを説明します。
皆さんは『FFTCG』を遊んでいて、こういう経験はありませんか?
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・膠着状態の戦況を打破するため、一気にフォワードと【1-083H】《マリア》をプレイしたら、そのターンは何点かダメージを稼げたが手札が減ってしまい、返しのターンから手札が足りなくて相手の展開についていけず負けてしまった
・アグレッシブな相手の動きについていこうと、相手より1枚バックアップが少ない状態でフォワードの展開と除去を繰り返していたら、少しずつ手札に差がついて負けてしまった
・序盤にバックアップを5枚並べて、さぁこれから攻勢に出るぞと思っていたら、何点かダメージは与えられたものの、相手にのらりくらりと対処され、いつの間にかバックアップの枚数でも追いつかれ、最終的に相手のカードに対処できず負けてしまった
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こういった負け方、『FFTCG』ではよくあると思う方も多いのではないでしょうか。
もちろん、たまたま相手のドローが強かった、こちらのドローが弱かったということもありますが、こういった敗北の陰にはバリュエーションの失敗が響いていることが少なくありません。
『FFTCG』では最初の手札で5枚、その後先攻1ターン目を除いて毎ターン2枚のカードを引いて戦うことになります。これはルールで決まっていてお互い条件は同じですので、ゲーム中に使用できるリソースは平等ということです。
では、どこで勝敗の差が生じるかというとコストを支払った際に得られるリターンの部分になります。
お給料が同じでも、やりくり上手な人のほうがお金をたくさん持っているように感じますよね。
つまり、勝利という目的地を目指すには“コストに対するリターンの効率を最大化”することが近道になりそうです。
しかし、効率がよい、悪いという判断をするためには具体的にはどのように考えればいいのでしょうか?
これを考えるためには、そのカードを使用するために支払うコストと使用したときに得られるリターンを明らかにする必要があります。
カードの左上に書いてある数字がコストというのは見ればわかりますが、リターンについては腰を据えて考えてみなければわかりません。
このリターンを定量的に明らかにする技術、つまりわかりやすい数字に置き換える技術がバリュエーションなのです。
詳細は次節以降で説明していきますが、その前に数字で表現することの利点を確認しておきましょう。
1.数字であれば大小でカードの比較が簡単にできる
2.思い込みや勘違いといったバイアスを排除できる
ここまで読んで「コストやパワーは数字だけど、カードにはその他の文字が山ほど書いてあるのに本当に数字で表せるの?」と疑問を持たれている方もいらっしゃるかと思います。確かに、カードに書かれた情報のすべてを数字で表現しきることは実際には不可能です。
例えば【10-023H】《ウネ》というカードがあります。
「このカードをプレイしたら、どのくらい得をすると思いますか?」と聞かれて即答できる人はいないでしょう。私もできません。
では【9-094L】《フースーヤ》ならどうでしょうか。
【10-023H】《ウネ》に比べると、評価するのが少し簡単な気がしませんか?
これは【9-094L】《フースーヤ》のテキストから得られる情報に、数字が多く含まれているからです。
パワーは「6000」、カードを「2枚」手札に加える、それらの「コスト×1000」ダメージを与える。こういったわかりやすい数字の情報が書かれているため、【9-094L】《フースーヤ》は【10-023H】《ウネ》に比べてバリュエーションしやすい(=強い、ではないことに留意してください)カードだと言えます。
このように、数字は効率のよしあしの判断をするための材料となります。
もちろん、あらゆる要素を数値化することはできませんし、カードのバリューは状況に応じて変わるため数値化したものが絶対評価で正しいということもありません。数字はあくまで相対的な評価となります。
ただ、いろいろなものを数値化し、自分のアクションに対するリターンを想定するというバリュエーションの考えは「悪くないプレイをしているはずなのになぜか負けてしまう」ことを減らすという当初の目的からすれば十分に意義のあることです。
ここまで、まずはバリュエーションの重要性についてお話ししました。
次は、リターンをどのように定義すればよいかを見ていきましょう。
◆リターンを「バリュー」と「安定性」で考える
リターンを定義するために、まずは『FFTCG』のルールに立ち返って考えてみましょう。
ゲーム中で使用するカードは50枚のデッキからランダムに引いてくることになります。
一方、デッキに入っているカード自体はランダムではなく自分が選んだものです。もしランダムであれば、それはデッキではなくただのカードの束です。
では、デッキに入れるカードはどのように選ぶかという点についてですが、これについては以下の記事を参照してください。
『FF-TCG』[From One Card ~1枚のカードから~]【2-051L】《ヴァン》編
『FF-TCG』[From One Card ~1枚のカードから~]スターターセット「ファイナルファンタジー零式」編
【FF-TCG】[From One Card~1枚のカードから~]数字から見るデッキ構築の方法
まとめると、デッキを構築する際はコンセプトを決めて、それに沿ってカードを加えたり、抜いたりしてバランスを整えていくということです。
また、デッキ構築の際はカード単体だけではなく、組み合わせによる相乗効果に期待してカードを選ぶのがセオリーです。
先ほど「やりくり上手」という言葉を使いましたが、プレイングだけでなくデッキ構築の面でも上手なやりくりによって勝ちを引き寄せることができます。
ただ、冒頭で述べたとおりゲーム中のドローはランダムなため、カードとカードの組み合わせが実現するかどうかにはランダム性が絡んできます。うまくやりくりしたつもりでも、確実にリターンが得られるわけではないということですね。
このランダム性はその名のとおりランダムなものなので厳密に数値化することはできませんが、なるべくわかりやすく捉えるためにここで「バリュー」と「安定性」という2つの概念を導入します。
◆リターンを構成する要素「バリュー」とは
バリューとはそのカードをプレイしたときに発揮するであろう価値のことで、安定性とはそのバリューが発揮されることの確からしさのことです。
つまり、カード1枚としてどうかという視点と、そのカードに関するランダム性の視点を切り分けることで、総合的なリターンを明らかにしようというアプローチです。
これらの概念について1つずつ詳しく述べていきます。
『FFTCG』の対戦ではフォワードが中心となることが多いので、フォワードのバリューから見ていきます。フォワードのカードには数字としてコストとパワーが大きめに書かれていますので、これらに注目してみましょう。
『FFTCG』には、「コストが3CPのフォワードであればパワーは7000、コストが1CP増減するとパワーは1000増減する」というゲームデザインにおける大まかな基準があります。バリューの“相場”とでもいうものですね。
もちろん例外はありますが、この法則に当てはまるカードは多いため、これを基準値として捉えることができます。
言い換えれば、パワー1000には1CPの価値があるということです。
仮に、自分の(基準値よりも強力な)3CPでパワー8000のフォワードと、相手の(基準値どおりの)4CPでパワー8000のフォワードが相打ちになれば、自分は1CP得したと考えられます。
相手が1CP損しているとも考えられますが、ゲーム中に使用できるリソースは平等なので、これらは同じものとして扱って問題ありません。
このコストに対するパワーの基準値を元に、フォワードのバリューについてさらに掘り下げていきます。
では、フォワードのカードに書かれている小さめの文字、アビリティについてはどうでしょうか。例として、この2枚を比べてみましょう。
【4-048L】《ロック》は3つのアビリティを持っていますが、まずは一番上の「ロックがフィールドに出たとき、あなたがロック以外の【カテゴリ(VI)】のキャラクターを2体以上コントロールしている場合、対戦相手は手札を1枚捨てる。」というオートアビリティに注目します。
このような「〇〇がフィールドに出たとき、~」というオートアビリティは、バリューを考えるうえで簡単に取り扱うことができます。
『FFTCG』のルールでは、手札1枚を捨てると2CPを発生できることになっています。つまり、このオートアビリティは「【4-048L】《ロック》をフィールドに出すと、ゲーム中に使えるリソースの総量から2CPぶん相手に損させる」と読み替えられます。
仮に自分の【4-048L】《ロック》と相手の【1-050C】《ナイト》で相打ちになれば、自分は2CP得したとも考えられます。
ここでは「あなたがロック以外の【カテゴリ(VI)】のキャラクターを2体以上コントロールしている場合」という条件を無視していますが、バリューを考えるときは「〇〇がフィールドに出たとき、~」を含む条件の部分は達成されているものと見なすこととします。条件の部分は記事の後編で説明する「安定性」の項で取り扱います。
【4-048L】《ロック》のその他のアビリティについても触れておきます。
まずスペシャルアビリティ「ミラージュダイブ」は使用してもCPは得しませんが、特定の状況では有効に働くこともあると考えられます。【1-050C】《ナイト》もよく見ると右上に一般アイコンがありますので、アビリティに限らず何かしら小さなメリットが1つあることも含めて基準値を持っているとみなすことができます。
もう1つの「ロックが対戦相手にダメージを与えたとき、対戦相手は手札を1枚捨てる。」については、こちらも記事後編の「対戦中のバリュエーション」の項で解説します。
次に、召喚獣のバリューについて考えていきましょう。
召喚獣によくあるのが「フォワード1体を選ぶ。それにダメージを与える/ブレイクする/手札に戻す」といった効果ですよね。それ以外の効果を持つものもありますが、ここでは“召喚獣とはフォワードに干渉するもの”だと考えてください。
ここまで読んできてくださった方には、上のカードで私が何を言いたいか察しがついていることと思います。
そうです。【1-023R】《ブリュンヒルデ》を【1-050C】《ナイト》に打つと等価交換ですが、【4-048L】《ロック》に打つと2CP損してしまうということです。
「そんなの当たり前じゃないか、それくらいわかるよ」と思われるかもしれませんが、バリュエーションというのはあらゆる状況においてこのように「損をするのか、得をするのか」を判断できるようになることを目指す技術です。
複数のフォワードとバックアップが並び、お互いに召喚獣を召喚しあっているような複雑な状況でも「あ、これ【4-048L】《ロック》に【1-023R】《ブリュンヒルデ》を使うのと同じだな。ちょっと損しちゃうな。どうしようかな」というようにバリュエーションできるようになれば、あなたは格段に強くなっているはずです。
少し話が逸れました。召喚獣のバリューについてでしたね。
召喚獣については、一般的にその召喚獣のコスト相当のフォワードを除去できるデザインになっているものが多く見られます。
【1-124R】《オーディン》は4コストまでのフォワードをブレイクできますし、【4-016R】《バハムート》の8000ダメージも、4コストフォワードの基準となるパワーと同値です。
これを応用すると、例えば【9-084H】《カイン》や【11-090L】《クジャ》といったフォワードのオートアビリティのバリューを、より深く正確に考えることができます。
【9-084H】《カイン》はパワー8000までのフォワードを除去する召喚獣を内蔵していると見ると、フィールドに出したときに最大6CPぶん得すると解釈することができます。(ここではコスト4でパワー8000のフォワードはコストの4CPとカード1枚ぶん=2CPのバリューを持っている、つまり合計4+2=6CPぶんのバリューがあると仮定している点に注意してください)。
【9-084H】《カイン》はオートアビリティを解決したあとパワー8000のフォワードとしてフィールドに残るため、本体はコスト4相当と考えられ、実際のコスト8から4CP損していることになります。
これらを総合すると【9-084H】《カイン》は6-4=2CP得するカードといえます。
同様に【11-090L】《クジャ》については4CP・パワー8000・おまけ付きで基準値相当、オートアビリティで最大5CP得なので、総合的に見て5CP得するカードとなります。
さて、次はバックアップのバリューについて考えていきましょう。その前に、人はなぜバックアップをフィールドに出すのかという点をわかりやすく解説した記事を紹介しておきます。
名人戦に向けレベルアップ! 開発課愛澤のプレイング講座:序盤編
要点としては、バックアップをフィールドに出せば毎ターンCPを回収できるということです。
ルール上、お給料は増えないことになっていましたが、お給料のなかから不動産投資をすれば家賃収入をゲットできるようなものですね。
バックアップの基準として、コスト1でアビリティのないものを考えます。コスト3で何かをサーチするバックアップも手札1枚=2CPとみなせば実質コスト1ですので、コスト的には基準相当と言えます。また、おまけ部分として、一般アイコンがあるか、手札の入れ替えができるかの差があると捉えられます。
上記の基準から、よりコストが大きいバックアップのバリューを考えていきましょう。
【1-137R】《シーモア》のような「〇〇がフィールドに出たとき、~」というオートアビリティを持ったものについては、フォワードと同様に考えることができます。
出したときに最大5CP得、コストは基準より3CP損なので、総合的に見て2CP得ですね。
では、【1-030R】《レブロ》のようなフィールドアビリティを持ったものはどうでしょうか?
コスト的には基準よりも2CP損です。パワー1000は1CP相当ということを思い出すと、自分の火属性のフォワードのバリューを1CPずつ高めると読み替えることができます。
つまり、対戦中に火属性のフォワードを2枚出せばコスト分は回収できており、3枚目以降は1CPぶんずつ得していくと解釈することができます。こういうふうにカードを解釈することがバリュエーションの基本です。
バックアップのバリューを考える際は、このような仮定を置けば理解が進むことが多いです。
記事の冒頭で「【1-083H】《マリア》を出したら負けた」という例を出しましたが、【1-083H】《マリア》であればフォワードを3体以上出さなければCP的には損をしているため、適したリターンを得られていなかった可能性があるということですね。
ここまでバリューについてお話ししてきました。
最後に、バリューを考える際の基本的なポイントをまとめておきます。なお、モンスターについても考え方はフォワードや召喚獣と変わりませんので、説明は割愛しています。
1.コストごとに設定されている基準値からの損得で表現
2.パワー1000=1CP
3.手札1枚=2CP
こう置き換えることによって、ほとんどのカードのバリューをそこそこの精度で見きわめられるようになるはずです。
◆後編に続く
カードの価値、プレイの価値を数値化して評価する技術「バリュエーション」について解説する本記事。前編ではバリュエーションの必要性と、カードを「バリュー」と「安定性」という2つの要素に分解すること、そしてバリューとは何かについてお話ししました。
最後にまとめた
1.コストごとに設定されている基準値からの損得で表現
2.パワー1000=1CP
3.手札1枚=2CP
という考え方は単純に見えますが「カードを出すのか、あるいは2CPぶんのコストにするのか」や「このバックアップを出した場合、かけたCPぶんのリターンを得られるのか」といったことを常に考えながらプレイしていく『FFTCG』では重要な指針であり、バリュエーションの第一歩ともいえます。
選択肢が多すぎてどういうふうにカードを出していけばいいかわからない、という方はまずはこれだけ覚えて、迷ったときの参考にしてみてください。
現在『FFTCG』では公式イベントや一部地域でのショップ大会の開催は見送られている状況ですが、Discordを使ったオンラインイベントが毎週開催されています。Discordサーバーではそれ以外にもフリー対戦の募集なども行なわれているので、『FFTCG』を始めたばかりという方も、ぜひオンライン対戦に挑戦してみてください。
この記事が、読んでくれた方にとって何かの参考になれば幸いです。
ではまた、記事後編でお会いしましょう。
よい『FFTCG』ライフを!