『Shadowverse』の記事連載。第1回となる今回は第5回「Ratings杯」の優勝者であり、「RAGE」のプレーオフ出場経験もある強豪プレイヤー、Q&Bさんの記事をお届けします。
はじめまして。Q&Bと申します。
今回、縁があってここで記事を書かせてもらうことになりました。よろしくお願いします。
僕は『Shadowverse』を中心として、カードゲームを競技的に遊んでいるプレイヤーです。
ここでは今後「RAGE」や「Ratings杯」などの参戦記録をお届けしていければと思います。
第1回目となる今回は「Q&Bって誰?」という多くの『Shadowverse』プレイヤーの方に向けて、自己紹介代わりに私の『Shadowverse』へのスタンスをお話ししたいと思います。
いきなり自分語りっぽくなってしまって恐縮なのですが、言いかえれば「大きなイベントに向けてのデッキ選択法、メタに合わせたデッキ調整法」の紹介なので、読んでいただいた方には「ふうん、そういうやり方、考え方もあるのね」と、何かの参考にしてもらえればうれしいです。
◆ちょっと前の話ですが……
この記事を書いているときにはまだ「RAGE Shadowverse Brigade of the Sky」の予選結果は出ていないので、ちょっと古い例になってしまいますが、1つ前の「RAGE Shadowverse Dawnbreak, Nightedge」の東日本予選を例にお話ししていきます。
(編註:Q&Bさんはこの予選のあと6月の「第5回Ratings杯」で優勝、8月の「RAGE Shadowverse Brigade of the Sky」西日本予選では初日5勝0敗、2日目5勝2敗の成績を残されました)
まず結果を先に書きますと初日を4勝1敗、2日目は7勝1敗でプレーオフに進出できましたが、そこで負けてしまいました。
僕が過去に参加した「RAGE」のなかではもっともいい成績をおさめられましたが、ファイナリストになるにはあと少し足りない結果となりました。
今回はこの大会における僕の思考について書いていきたいと思います。
なお、これは「Dawnbreak, Nightedge / 起源の光、終焉の闇」のアディショナルカード追加前の環境についての内容になります。
目次
1. カオスのなかにも答えはある
2. 迷走するデッキ候補、そして運命の出会い
3. そして本番へ…
4. 大会を振り返っての収穫と反省
◆1. カオスのなかにも答えはある
西予選配信でファイナリストになったお二人が使用したデッキは「ミッドレンジロイヤル」、「アーティファクトネメシス(以下、AFネメシス)」、「コントロールエルフ」、「ジンジャーウィッチ」の4つでした。
また、プレーオフ進出者や2日目に6勝以上の成績をおさめて賞金を獲得したプレイヤーが使用したデッキは「アグロエルフ」、「ギガントキマイラウィッチ」など多岐にわたっており、一筋縄ではいかない環境だと感じさせられました。
こういったカオスな状況で有効なデッキを選択するためにはメタゲームを正しく予想する必要があります。
「1強とそれを追う3種のデッキ」といったようなわかりやすい状況よりは見えにくくなっていますが、カオスのなかにもメタゲームは存在します。
しかし、それを予想するにはさまざまな視点からの情報が必要です。
そのため西日本予選の結果以外にも、直近の「JCG」やランクマッチでの使用率などを含めて、可能な限り集められる範囲のデータを集めてみました。その結果がこちらです。
大会形式がBO3であることを考慮して、使用率の合計は200%になるように付けてあります。
調査の結果「JCG」とランクマッチの双方で常に使用率No.1だった「ミッドレンジロイヤル」が60%と圧倒的であり、そこにネメシス、エルフ、ウィッチが40%~35%の間で続く形となりました。
ロイヤルが一番多いことが明確になり、そしてそのロイヤルに強いネメシスが対抗馬として二番手に位置するという構図が見えてきました。
これを見て皆さんはいかがでしょうか。
「メタは混沌としている」と雑に割り切ってしまうよりも「環境の筆頭はロイヤル、差は小さいがそれをネメシスが追っていて、そのすぐ後ろにエルフとウィッチ」と考えた方が、より意識を整理してデッキ構築や練習に望めるのではないでしょうか。
もちろん、東日本予選の実際の使用率とは当然誤差が生まれるでしょうが、多少間違っていても構わないので実際に数値化してみることを僕は重要視しています。また、ちゃんと下調べをしておけば大幅なズレはあまり起こらないと感じています。
こうしてTier1と呼べるグループが形成され、その下にTier2としてビショップやドラゴン、ヴァンパイアが並びます。これらは絶対数こそ少ないものの10回戦以上の長丁場となれば一度は当たってもおかしくない、という程度の使用率です。そして今回のメタゲームではネクロマンサーは当たることはまずないだろうと考えられる使用率でした。
このデータを基に、ベストなデッキを探っていくことになります。
◆2. 迷走するデッキ候補、そして運命の出会い
西日本予選が終わってから、以下のようなデッキが有力ではないかと考え、テストを始めました。
まずは《援護射撃》に特化したロイヤルです。
環境2トップと目されるロイヤルとネメシスに対して、通常のロイヤルよりも強く出られるデッキ!環境に適している!……と思っていましたが、一緒に調整している仲間とロイヤルのミラーマッチを試してみたところ、なんと負け越してしまうという事態が発生。
ほかの調整仲間もここまで極端な《援護射撃》特化でないにせよ、《援護射撃》に寄せたロイヤルと《援護射撃》を採用しないロイヤルとのマッチアップを検証していたのですが、この「援護射撃型」の優位性をまったく感じられないという結果が次々と上がってきました。
このころ世間的には「援護射撃型」はミラーマッチに明確に強いとされていました。
これは『Shadowverse』に限ったことではありませんが、カードゲームのミラーマッチでは相手よりも少しだけ重く、バリューのあるカードを採用することで有利に立てることが多く、そして《援護射撃》はまさにそれにうってつけのカードです。なので、この結果には強い違和感をおぼえました。
理論上は有利なはずなのになぜ「援護射撃特化型」が負けてしまうのか?
それを検討してみたところ、
・5ターン目に設置しても、6~7PPでは結局相手の《騎士王・アーサー》への有効な回答にならない
・《黒の女王・マグナス》に効果が封じ込められてしまう
・デッキに兵士・フォロワーが15枚前後入っているので、せっかく5ターン目に設置しても肝心の指揮官・フォロワーがない事がある
といった欠陥が見えてきました。
《援護射撃》というカードはミラーマッチにおいて、あくまで10PPに到達する消耗戦を制するためのカードであり、最速で設置してもすぐにゲームエンドを狙えるような類のカードではなく、これのためにデッキを寄せるのは間違っているという結論が得られました。
また「AFネメシス」に対しても《援護射撃》を2枚設置すれば対抗できるものの、1枚では勝負にならず、むしろせっかく押している場面で手札に残っているのが《援護射撃》なせいで、とどめの一撃にならないシーンが目立ちました。
もちろん、この時期の《援護射撃》が弱かったかといえばそれは別の話です。ただ、僕たちが求めていた「ロイヤルのミラーマッチにおいて無条件に優位に立たせてくれるカードではなかった」ということですね。
こうして「ミッドレンジロイヤル」の調整がいったん保留されたところで、次に手をつけたのは「AFネメシス」です。
環境トップと予想されるロイヤルに有利がつくデッキで、それだけでもBO3の大会では選択理由になります。
ただし、僕はこのデッキの使用経験が乏しく練度に不安がありました。
ミラーマッチで勝てるならメタゲーム的な立ち位置はいいと感じたので、東日本予選まで残り1週間ぐらいの頃に練習し始めることにしました。
…しかし「ミッドレンジロイヤル」にこそ勝てるものの、当然各種エルフには勝てないし、何よりミラーマッチで8連敗を喫してしまいました。
メタゲームが予想通りに推移すれば、お互いに「ミッドレンジロイヤル/AFネメシス」という構成でぶつかる試合も増えるでしょう。そのときにミラーマッチで負けるようであればお話しになりません。
4月からこのデッキを練習していれば…と後悔するものの、時すでに遅し。
「AFネメシス」は諦めて、新しいデッキを模索することになります。
その次に白羽の矢が立ったのは「アグロエルフ」でした。
「AFネメシス」に対して大きく有利をつけられるという特徴を持ったこのデッキ。
僕はこのデッキの練度に最も自信があり、ミラーマッチでも勝てると考えていました。
対ロイヤルは多少不利とされてきましたが、世間のロイヤルは「援護射撃型」に向く一方で、それすなわち「アグロエルフ」にとってロイヤルから最も出されたくないカードである《先陣の騎兵》の枚数が減らされていることとほぼ同義でした。
《先陣の騎兵》さえプレイされなければ、自分の練度なら「アグロエルフ」でロイヤルに勝ち越すことは十分に可能だと感じました。
実際、西日本予選が終わってから最も高い勝率を叩き出したのはこのデッキで「コントロールエルフ」などの苦手デッキが存在することを加味しても、使用デッキの最有力候補であることは疑いようがありませんでした。
ほかにも「ギガントキマイラウィッチ」や「ニュートラルウィッチ」などをテストしてみるものの、どれもパッとしない結果に。
「アグロエルフ」は持ち込みたいけれど、もう一つのデッキがない…という状態が続いていました。
この勝率表は主観的なもの、つまり「自分にとっての勝率」であり、ミラーマッチの勝率は50%になるとは限りません。
また、テストしていないデッキについては使う側のデータを載せていません。
それでも数値化するとやはり「アグロエルフ」の勝率が圧倒的であり、このデッキに対する信頼がより高まることとなりました。
実際の使用率や各マッチアップの勝率には誤差があるとは思われますが、それでも他のデッキと勝率に5%以上の差をつけていれば「アグロエルフ」を持ち込むことに間違いはなさそうです。
しかし、それ以外のデッキは団子状態となっており、一応「ミッドレンジロイヤル」が二番手ではあるものの、三番手以降との差はわずかであり各データに多少誤差があるだけで勝率の順位が入れ替わってしまいます。
大会前日になっても二番手のデッキが決まらず、とりあえず「アグロエルフ」と「ミッドレンジロイヤル」で行くかと決めて、仕事帰りで疲れてそのまま寝てしまいます。
……起きたときには、時計は23時を示していました。
デッキ登録期限まで残り1時間。
PCをつけ、調整メンバーとのグループチャットをのぞくと、
「このデッキと心中するか迷ってます」というメッセージと《アジ・ダハーカ》3積みが特徴的な「原初ドラゴン」の画像が載っていました。
当時の「原初ドラゴン」に対する僕の認識は「AFネメシス」に対して「アグロエルフ」の次に優位に立てるデッキではあるものの《原初の竜使い》を都合よく引いて進化させ、さらに維持し続ける必要がある「好都合な回りを期待するデッキ」という認識でした。
また、世間の「原初ドラゴン」には自分のフォロワーを巻き込む《狂えるドレイク》なども採用されており、デッキ全体としてのかみ合わなさが好きになれませんでした。
しかしチャットに載っていた構築はそういったかみ合わない部分を排し、大型の疾走フォロワーが多数採用されている非常に攻撃的なもの。
構築を見た瞬間、何かビビっとくるものを感じ、残り時間わずかながらもランクマッチでテストを始めることに。
すると初回から《原初の竜使い》を引けないものの、代わりに引いた《アジ・ダハーカ》2枚を走らせるだけで勝ち。
それ以降の試合も《原初の竜使い》が残って盤面を制圧したり、そうでないときは疾走フォロワーが駆け抜けたりといった内容で、可能性を感じさせるものでした。
「RAGE」でファイナリストになるには初日を4勝1敗以上、2日目を7勝1敗以上、そしてプレーオフで2~3勝という、驚異的なパフォーマンスが求められます。
「ミッドレンジロイヤル」を使えばBO3での勝率は6割から7割程度は出るかもしれませんが、それではファイナリストになれる可能性は非常に低いものとなります。
僕が目指すのはファイナリストただ一つであり、無難な戦績ではないのです。
結局、最大値が見えている「ミッドレンジロイヤル」よりも、未知数ながら可能性を感じさせられる「原初ドラゴン」の方がファイナリストになれる確率は高いと判断し、調整グループ内で「原初ドラゴン」を使用することを表明しました。
このデッキを載せたゲキカラーズさんも腹は決まったようで、他にもこのデッキを使うと表明したメンバーもおり、集団で「原初ドラゴン」を持ち込むまさかの流れとなりました。
◆3. そして本番へ…
東日本予選での戦績は以下のようになりました。
Day1
Round1:
ミッドレンジロイヤル 教会ビショップ
×先E-R
○先E-B
○先D-B
Round2:
ギガントキマイラウィッチ 教会ビショップ
×後E-B
○先E-W
○後D-W
Round3:
コントロールエルフ ミッドレンジロイヤル
×後D-E
×後D-R
Round4:
ミッドレンジロイヤル ジンジャーウィッチ
○後D-W
×後E-W
○先E-R
Round5:
コントロールエルフ ギガントキマイラウィッチ
×後D-E
○先D-W
○先E-W
Day2
Round1:
コントロールエルフ 原初ドラゴン
○先D-E
×後E-E
○後E-D
Round2:
ミッドレンジロイヤル ジンジャーウィッチ
○後E-W
×後D-R
○先D-W
Round3:
ミッドレンジロイヤル AFネメシス
×先E-R
○後E-Nm
○先D-Nm
Round4:
ジンジャーウィッチ ビショップ(デッキタイプ不明)
○後D-W
○後E-W
Round5:
アグロエルフ ミッドレンジロイヤル
×先D-R
○後D-E
○先E-E
Round6:
ミッドレンジロイヤル AFネメシス
○先D-R
×後E-R
○先E-Nm
Round7:
アグロエルフ ミッドレンジロイヤル
○後D-R
×先E-R
○先E-E
Round8:
ミッドレンジロイヤル 教会ビショップ
×先D-B
×先D-R
プレーオフ1回戦
シード
プレーオフ2回戦(配信卓)
ミッドレンジエルフ ミッドレンジロイヤル
×後D-R
×先D-E
総合成績
11勝3敗
アグロエルフ 11勝7敗
原初ドラゴン 11勝9敗
2-1勝ち、0-2負けばかりで、11勝3敗とは思えないほど個々の戦績はよくないですね……!
「アグロエルフ」の相方に「原初ドラゴン」をすえる利点としてお互いが得意とするデッキが似通っているという点が挙げられます。
BO3という形式は、2つのデッキにとって得意なデッキ・苦手なデッキをばらけさせるより統一させた方が勝率が高くなる傾向にあります。
「アグロエルフ/原初ドラゴン」はともにウィッチ・ネメシスを非常に得意としており、事実どちらかが入った構成には7回当たって全勝しています。
逆に、これは予想していたことではあるのですが「アグロエルフ/原初ドラゴン」が共通して苦手とする「ミッドレンジエルフ」や「コントロールエルフ」が入った構成には苦戦を強いられました。
負けた3試合のうち2試合はこれらのアグロではないエルフが絡んでおり、妥当といえば妥当な結果でしょう。
9ヶ月ぶりに配信卓にも座りました。
僕は配信卓が好きなので素直に嬉しかったです。
配信卓ではギャラリーの歓声が聞こえないようにイヤホンの上に大音量のホワイトノイズを発するヘッドホンをかけられます。
前回は慣れない環境でのゲームプレイに少し苦しみましたが、今回はむしろゲームに没入できて集中力が増したのを感じました。
最終的にはこの配信卓にて、やはりと言うべきでしょうか、苦手なデッキである「ミッドレンジエルフ」にトドメを刺されることに。
こうして、僕の東日本予選は終わりました。
◆4. 大会を振り返っての収穫と反省
今回最もうれしかったのは、何と言っても調整仲間であり、僕に原初ドラゴンを提供してくれたゲキカラーズさんのFinal進出です。
僕は彼のおかげでプレーオフ進出できたといっても過言ではないので頭が上がりません。
さて、ゲキカラーズさんと僕の決定的な違いは、ズバリ「『原初ドラゴン』の練度」です。
ここが今回最も悪かったところと言って差し支えないでしょう。
プレーオフ2回戦での敗北も、僕のプレイミスがなければ十分に勝ち得たゲームでした。
(対ロイヤルの後手4ターン目、《活竜剣》を選んでいれば…!!)
「原初ドラゴン」というデッキは東日本予選において非常にいいデッキ選択だった可能性が高いですが、いかんせん使用を決めたのが登録期限1時間前というのは遅すぎます。
ゲキカラーズさんも使い始めたのは登録期限3日前だったそうですが、3日と1時間には天と地ほどの差があります。
せめて1日でも期間があれば「原初ドラゴン」特有の立ち回りを色々とおぼえることができたでしょう。
逆に今回よかったと思う点は、慣れた「ミッドレンジロイヤル」を捨ててでも経験のない「原初ドラゴン」を選択したことです。
大層な言い方をしていますが、実際やったことは他人からデッキを貰ってそのまま使っただけではあるのですが……。
それでも目標を「ファイナリストになること」一点に絞って、中途半端な成績に終わる可能性が高い「ミッドレンジロイヤル」を捨て、未知数だがリターンを期待できる「原初ドラゴン」を選択したために今まででもっともいい成績を収めることができたというのは貴重な経験になりました。
「よいデッキ選択はよいデッキ構築・よいプレイに勝る」というのは僕の持論ですが、改めてそれを実感することとなりました。
また、構築の中身に関しても、ゲキカラーズさんの「原初ドラゴン」は非常に洗練されていました。
「アグロエルフ」に関しては誰が組んでもあまり大きな差は出ないので、この「原初ドラゴン」の完成度のぶん他のプレイヤーより構築面で勝たせてもらっていたといっていいでしょう。
総合すると、
デッキ選択:90点(一か八かが当たった)
デッキ構築:90点(最初からゲキカラーズさんのデッキが強かった)
プレイング:50点(「アグロエルフ」と比べて「原初ドラゴン」の練度が低かった)
といったところでしょうか。
ファイナリストになるためにはあと一歩、プレイングの要素が足りませんでしたね。
負けたことは悔しいですが、今までデッキ選択で優位に立てたという大会が少なかったため、
今回の結果は大いに自信を持てる要素となりました。
次はデッキ選択・デッキ構築・プレイングの全てをそろえてファイナリストの座を勝ち取りたいものです。
それではまた、次回の記事でお会いしましょう。
次回は「RAGE Shadowverse Brigade of the Sky」西日本予選のレポートと、そこで得られた知識や経験をお話しする予定です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。