【Shadowverse】白悠咲美のコラム:環境の推移とそれに応じたデッキ調整法を語る

『Shadowverse』の公式記事連載。今回は環境の推移の仕方と、それに応じた実戦を介しての調整法について、白悠咲美さんが語ります。

◆はじめに

皆さん、こんにちは。
白悠咲美(はくゆう さくみ)と申します。

これから、こちらで『Shadowverse』の記事を書かせてもらうことになりました。
以降、よろしくお願いします。

当然ですが「白悠咲美って誰?」と思う方も多いはずなので、まず簡単に自己紹介をしたいと思います。
RTS、格ゲー、DOTA系、ネットゲーム、カードゲーム、ロボットバトル、弾幕アクションなど人と戦えるゲームならFPS以外はなんでもやる、根っからの対戦ゲーム大好きゲーマーとだけ覚えていただければ幸いです。

残念ながら、これまで人に自慢できるような経歴はほとんどありませんが、広く浅くで培ってきた経験を活かして皆さんに何かを伝えられればいいなと考えています。

そんな私がここで書こうと思っているのが『Shadowverse』の環境の推移の見方とそれに応じたデッキの調整法、そして実践についてのテキストです。
簡単に言えば「環境を『今はこうだろう』と読んでデッキをカスタマイズし、そして実際に戦ってみたらどうだったか」のご報告ですね。

うまくいくときもあればうまくいかないときもあると思いますが、せいいっぱいがんばりたいと思います。

◆環境がどう変化していくかを言語化してみよう

さて、まずはじめに『Shadowverse』の環境がどのように動いていくかを説明します。
『Shadowverse』の環境は時期によって次の3種類に分けられます。

1.新カード追加直後
2.環境が固まってきた~大型大会前
3.大型大会後

それぞれ簡単に説明すると、

1.新カード追加直後
新カード追加から1週間ぐらいを指します。
各プレイヤーが追加されたカードを用いて新しいデッキを作ったり、既存のデッキに新カードを採用して使用感を確かめている時期です。
この時期は、相手のデッキに合わせたチューニングなどは考えず、やりたいことをやる方が楽しいし、勝てます。

とにかく発想力と既存の価値観に縛られない天真爛漫さ、ダメだと思ったらすぐに掌を返すスピード、いい言い方をすればフットワークの軽さ、悪く言えば身勝手さが結果に繋がりやすいので、おもちゃ箱を覗く童心を取り戻しつつ、カードリストに目を通していきましょう。新環境初期はやったもの勝ちの「こどものじかん」です。

2.環境が固まってきた~大型大会前
新カード追加から1週間後~大型大会前ぐらいを指します。
この時期は新カード追加直後の混乱を経てデッキが一つ、また一つと淘汰されていった結果、生き残ったデッキがひとまずそろうタイミングです。

小規模、中規模の大会を勝ち抜いたデッキリストがインターネット上で公開され始めるため、環境の傾向をプレイヤーが理解し始めます。
この時期は、各デッキが「自分のやりたいこと」と「相手にやられたくないこと」のバランスを取りながら、カードを取捨選択する「大人の時間」と言えるでしょう。
大人の時間なので閃きよりも冷静さ、愚直にテストをくり返す地道な調整が身を結ぶ傾向にあります。

3.大型大会後
そして最後が大型大会の後です。
大型大会の後は、一度すべてのプレイヤーの手の内が明らかになります。当たり前ですが、勝つためには出し惜しみをしているわけにはいきませんからね。
「結局、一番優れたコンセプトはなんだったのか?」の答えあわせもされますし、コンセプトだけでなく細かいカード選択についても正解がはっきりします。
そうして最強の武器はなにかという答えが出た以上、もう武器を探すのではなく武器を使う腕を磨く時間が始まります。いうなれば「戦士の刻」です。

デッキ調整によって結果を出せる大人の時間は終わりを告げ、プレイングやマリガンといったスキルの差で決着がつくようになります。
この時期になると、デッキ調整という点ではあまりできることはありませんが、環境が固定されTier1デッキの使用率が非常に大きくなるため、Tier1のデッキの一つには大きく有利は付くが、他のデッキには相性があまり良くないTier3くらいのデッキが脚光を浴びるタイミングでもあります。

おおよそ『Shadowverse』の環境の推移と、それぞれの時期に取るべき調整、練習方法について簡単にお話ししました。
まとめると「最初は頭を使う」「次は足を使う」「最後は腕が出る」ということですね。

◆実際の調整方法を見てみよう

では続いて、これまでお話ししたことの実戦についてお話ししたいと思います。
今回は「Brigade of the Sky / 蒼空の騎士」がリリースされたあとの環境を例に「2番目の時期」の調整方法を振り返ってみましょう。
この記事が掲載されるころには「Brigade of the Sky / 蒼空の騎士」のアディショナルカードがリリースされて少し経っているはずなので、ちょうどいいのではないでしょうか。

まず、デッキ調整の手順は以下のように進行します。

  1. 環境の理解
  2. 使うデッキの選択
  3. デッキ調整

1.環境の理解
まずはじめに、環境を定義するために主要なデッキを一通りリストアップし、各デッキの特徴・長所・短所・相性を確認しましょう。
さらに長所、短所についてはそこから「得意なデッキタイプ」「苦手なデッキタイプ」まで考えておくとあとで役立つことが多いです。

さて、ではこの時期に流行していたデッキを見ていきましょう。

まずは「天狐ビショップ」。

特徴:《天狐の社》と回復効果のあるカードを軸にしたコントロールデッキ。

長所:体力回復によるアグロデッキへの耐性。盤面を制圧する力も高い。またドローカードも多く、キーカードへアクセスしやすい。
短所:攻撃的なカードは少なく、相手の体力を素早く減らす手段に乏しい。
得意:ライフ回復が有効なアグロデッキと、盤面制圧カードが効果的なミッドレンジデッキが得意。
苦手:一撃でライフを詰めてくるコンボデッキに対しては、ライフ回復も盤面制圧も意味がないため苦手。

続いて「聖獅子ビショップ」。

特徴:《聖獅子の結晶》を軸にしたデッキ。

長所《聖獅子の神殿》によるコストの踏み倒しによる展開。《聖獅子の結晶》がアドバンテージ獲得とフィニッシャーを兼ねるため、デッキ全体を軽くすることで事故を減らせる。また《天罰の神父》のようなテンポアドバンテージに特化したカードも採用しやすい。
短所:守護や回復に乏しい。
得意:ミッドレンジ~コントロールの防御的なデッキに対して、無限に現れる《聖なる王の獅子》により圧倒的に有利。本リストでは、コンボデッキミラーで相手のフィニッシュを1ターン遅延させるために《赤枝の聖騎士・ノイシュ》を採用。
苦手:アグロデッキに対しては準備をしている間に負けてしまうので苦手。「軽いデッキ」であることがコンセプトなので高コストの範囲除去は採用しづらい。《プリズムスイング》《聖なる王の獅子》などカード1枚では4ダメージが限界で、体力5のフォロワーに対処しにくい。

次は「人形ネメシス」。

特徴:《操り人形》を軸にしたデッキ。

長所《操り人形》を集めて《人形の少女・オーキス》《復讐の人形遣い・ノア》で押し込む攻撃的なプランと、《操り人形》による無駄のない盤面トレードや《すり替わり》《リトルパペッター・ロココ》といった優秀な除去カードによる防御的なプランの両方を取ることができる。《奮励の儁秀・シルヴァ》により回復のない相手へのロングゲームが得意。《立ち上がりし鋼の戦士・シロウ》のカードパワーが高く、2枚使えればそれだけで多くの相手に有利に立てる。
短所:フィニッシュ手段が疾走による10点前後のダメージであり、やや爆発力に欠ける。また、攻撃的なデッキにも関わらずフィニッシャーが8コスト、9コストのカードを採用しているため、それらが手札にたまって動きが鈍ることがある。
得意:ライフ回復や守護のないデッキには《操り人形》を集めながら攻めるだけで勝てる。
苦手:ライフ回復と守護を有するデッキはいつまでもリーサルパターンに持っていくことができないままズルズルと手札を消費していく展開となるため苦手。

次は「ミッドレンジロイヤル」です。

特徴:高い展開能力と大量のエンハンスカードにより、常に安定して盤面へプレッシャーをかけることができるミッドレンジデッキ。

長所:突進や疾走カードが多く、盤面の制圧、盤面を取り返す能力に長けている。また、エンハンスカードを大量に採用しているため、10ターン目以降も息切れすることがない。《黒の女王・マグナス》《小さな聖騎士・シャルロッテ》によって、ダメージによる除去を無効化することもできる。。
短所:コスト相応のカードが多く、コストを踏み倒すカードがない。複数のフォロワーを同時に倒せるカードが少ない。
得意:盤面制圧をダメージ除去に頼るコントロールデッキ~コンボデッキは得意。守護や突進、疾走といったフォロワーの戦闘に干渉するカードが多いため、アグロデッキも得意。リソースが尽きないため遅いゲームも苦手ではない。
苦手:良くも悪くもコスト相応のカードしかないため、コストを踏み倒してくる動きが苦手。また、複数フォロワーの除去がしづらいため、一度に展開されると処理ができなくなる。

最後は「アグロエルフ」です。

特徴:1コストフォロワーから始まる怒涛の展開能力を持つアグロデッキ。

長所:序盤の盤面を優秀な低コストフォロワーから《茨の森》《妖精の調べ》といったカードに繋げて一気にライフを詰めることができる。また、少し序盤を抑えられたとしても《イピリア》《妖精の使役者》といった妨害されにくいカードでダメージを与えられる。
短所:フェアリー生成以外にハンドアドバンテージを獲得する手段に乏しく、エンハンスを持たない低コストフォロワーでデッキが構成されているため息切れが早い。
得意:序盤にフォロワーを展開したり、ドローカードでデッキを掘り進むデッキ相手は得意。
苦手:展開と強化でライフを削り、潜伏と疾走でトドメをさすので序盤を除去、中盤以降は守護で守ってくる相手が苦手。ライフを詰めるデッキなので回復手段の多いデッキも苦手。

大体このあたりでしょうか。

ほかにも「ギガントキマイラウィッチ」や「リントヴルムゾーイドラゴン」、「自傷ヴァンパイア」などコンセプトを前面に押し出したデッキは多数存在しますが、ここでは一度割愛します。

次に、上にあげた5デッキ間の相性を確認します。
実際に各デッキで対戦するのもいいですが、今回は各デッキの長所と短所を見て自デッキのコンセプトが相手デッキのコンセプトに強いか弱いかで相性を定義します。

「聖獅子ビショップ」対「アグロエルフ」は「聖獅子ビショップ」の『序盤フォロワーを展開しつつ聖獅子のカウントを進め、8ターン目以降に《聖なる王の獅子》を連打し続けて押し込む』というコンセプトが、アグロエルフの『高速展開+バフ⇒疾走&潜伏フィニッシュ』というコンセプトをまったく妨害できておらず、《聖獅子の結晶》のプレイ回数がたまる前に「アグロエルフ」が押し切る展開となるため「アグロエルフ」がとても有利。

このような感じで各デッキの相性を机上で定義していくと、次のようになります。

特筆するべきはやはりビショップでしょうか。
「天狐ビショップ」は「聖獅子ビショップ」以外のデッキには有利、「聖獅子ビショップ」は他のデッキには不利なものの「天狐ビショップ」にはとても有利。今回一番強いデッキとして選択するべきは、ビショップデッキのどちらかになります。
「天狐ビショップ」か「聖獅子ビショップ」のどちらを選ぶかというと、これは「天狐ビショップ」が正解です。

理由としては、「聖獅子ビショップ」は構造的にアグロデッキとの相性を覆すことが難しく、伸びしろがあまりないと考えられるからです。
仮に採用カードを工夫してアグロデッキへの相性を改善したとしても、持ち味であった対「天狐ビショップ」での圧倒的な相性が悪くなる可能性は高く、どういうかたちであっても中途半端なデッキとなる可能性が高いです。

対して「天狐ビショップ」は「大量の回復カード+破壊しづらい《天狐の社》というアミュレット+《詠唱:白牙の神殿》によるコストの踏み倒し」というコンセプトが対アグロ~ミッドレンジに対して非常に強力であり「聖獅子ビショップ」のように「天狐ビショップ」を狙いうちにするような構成でない限り基本的に有利なマッチが多いです。

また、上記のコンセプトを構築するうえでの必須カードは《七宝石の姫・レ・フィーエ》《詠唱:白牙の神殿》《天狐の社》の3種類のみであり、回復カード、除去カード、ドローカード、他フォロワーの選択の自由度はかなり高いです。そのため、理想としては『「聖獅子ビショップ」への相性を改善しつつ、他とのデッキの相性も有利のまま』といったよくばりな調整も夢ではありません。

 

◆頭のなかで考えた環境推移を元に、まずはデッキを作り、試す

というわけで、「聖獅子ビショップ」と戦える「天狐ビショップ」を考えようということになりました。

私が最初に作ったデッキはこちら。

名づけて「獅子天狐」です。

「獅子天狐」は以下のような構想から成り立っています。

  1. 「天狐ビショップ」のミラーマッチでは《聖獅子の結晶》が強い
  2. 本来苦手な「聖獅子ビショップ」戦はキーカードが同じなので五分になる
  3. それ以外のデッキには「天狐ビショップ」として勝つ

作ったときはいい感じに思えたのですが、実際回してみると「天狐ビショップ」にも「聖獅子ビショップ」にもあまり成績がよくありません。おまけに今まで圧倒していたはずのほかのデッキにも負けるようになりました。

入っているカードは強いはずなのに勝てない。
これはデッキを調整しているとよくあることなので、ここでくじけて「やっぱりネットにある強いデッキをそのまま使おう」とは考えず、冷静になって考え直しましょう。

そうすると、いくつか見落としていたことに気がつきます。

1:「天狐ビショップ」のミラーマッチでは《聖獅子の結晶》が強い?
これがまず大きな誤りでした。確かに《聖獅子の結晶》は強いのですが、強さを発揮するためには《聖獅子の結晶》やそれに関係するカードをまとめて引く必要があり、散発的に《聖獅子の結晶》を唱えているだけでは能力のないフォロワーを出す「天狐ビショップ」になってしまい、ミラーマッチで押し負けるゲームが多発しました。

2つのコンセプトを詰め込んでいるため、ドローカードに割くスロットが減っており、コンセプチュアルに動くためのパーツがそろわず《聖獅子の神殿》《詠唱:白牙の神殿》《天狐の社》《プリズムスイング》といったどっちつかずの展開に陥ることも多かったです。

2:本来苦手な「聖獅子ビショップ」戦はキーカードが同じなので五分になる?
これも間違っていました。相手のデッキは《聖獅子の結晶》関連のカードをドローソースで引き込んだうえで「2コストで《聖獅子の結晶》を使う」ことでプレイ回数を素早く増やすことができますが、こちらはそこまでカードを引けないため、5コストで《聖獅子の結晶》を使わざるを得ません。

もちろん、こちらも2コストで使えることもありますし、相手が5コストで使うこともあります。
しかし、軽く記録をとってみると1.85倍ほど《聖獅子の結晶》のプレイ回数に差がありました
これでは小学生とトップアスリートが100m走で勝負しているようなものです。デッキに同じカードが入っているからといって同じ効率で動けるとは限らないわけですね。

3:それ以外のデッキには「天狐ビショップ」として勝つ?
これも見通しが甘かったと言わざるを得ません。
「天狐ビショップ」と「聖獅子ビショップ」という2つのコンセプトは、もともとシナジーがあるわけではありません。デッキパワーのみを追求して搭載したものです。
そして、そのせいで1つの大きなアンチシナジーを抱え「天狐ビショップ」としても振る舞えなくなっていたのです。

問題の核心は「天狐ビショップ」のキーである《天狐の社》と「聖獅子ビショップ」のキーである《聖獅子の神殿》にありました。

《天狐の社》はカウントダウンで破壊されるわけでもなく、ずっと場に残る強力なアミュレットです。また《聖獅子の神殿》も場に残るアミュレットです。

「アミュレットは破壊されづらく、それゆえにアミュレットを軸にしたデッキは強い」

「天狐ビショップ」も「聖獅子ビショップ」もこの理屈の恩恵を受けているデッキです。
しかし、強力なアミュレットを連打した結果、場がアミュレットで埋まってしまい手詰まりになってしまうのです。

たとえば、あるゲームでは《詠唱:白牙の神殿》《天狐の社》《天狐の社》と展開できました。いい流れです。しかし、そこから《聖獅子の神殿》2枚を含む《聖獅子の結晶》関連のカードばかり引いた結果。場が《天狐の社》2枚、《聖獅子の神殿》2枚になって身動きできずに負けました。

◆実戦で得られたデータからデッキを調整、再構築する

強いデッキのいいとこ取りにできたかと思えた「獅子天狐ビショップ」はあえなく解体となりました。

ただし1点だけ発見がありました。
話がわき道にそれますが、何かの役に立つかもしれないので書いておきます。

このデッキは相手が「天狐ビショップ」や「聖獅子ビショップ」を意識しすぎて、過剰にアミュレット対策カードを搭載してきた場合にかぎり、ものすごい強さを発揮します。
なぜなら、こちらがアミュレットをどれだけ展開しても、全部除去してくれるので場のスペースに不自由しないためです。
普通のデッキであれば、コンセプトカードを除去されたことでデッキが機能不全に陥ってしまい負けてしまうのですが、このデッキは逆に最初から機能不全に陥っており、アミュレットを除去されることで、はじめて機能が回復して軽快に動き出すのです。

ここで発見できたのは「コンセプトを過剰に搭載したデッキは自滅するが、環境の方も過剰に対策するようになっている場合はそのかぎりではない」ということです。
つまり何事もバランスの問題であり、環境が過剰に偏っていたならば、偏ったコンセプトが通用することもある……かもしれません。

話を戻しましょう。

「天狐ビショップ」と「聖獅子ビショップ」の合体は不可能という結論が出ました。
では、次はどうすればいいのでしょう。
「聖獅子ビショップ」と同じ強さになれないならば、相手の弱点をつくことを考えましょう。
「聖獅子ビショップ」の弱点は先ほどもお話ししたようにアグロデッキに対して脆いことです。

では「天狐ビショップ」をアグロデッキにすればいいでしょうか?
一瞬、《ゴブリン》の入った「天狐ビショップ」を作ろうかと思いましたが、直前の大失敗を思い出して踏みとどまりました。

「天狐ビショップ」のアグロデッキ化は難しそうなので、「聖獅子ビショップ」のもう1つの弱点である「体力5以上のフォロワーに対処しにくい」という点に注目してみましょう。
「聖獅子ビショップ」は、おおむね8ターン目ごろから《聖獅子の結晶》を1ターンに何度もプレイして疾走フォロワーを出し続ける勝ちパターンに移行します。
盤面に余裕があれば相手のライフを攻め、必要に応じて相手のフォロワーにぶつけて盤面を制圧していく。相手の処理が追い付かなければ、すぐに12点16点とライフを一気に削れます。

この動き、一見完璧に見えますが弱点があります。
《聖なる王の獅子》は攻撃力4、体力4のフォロワーであるため、1体で攻撃力4で体力5、あるいはそれ以上のスタッツを持つフォロワーとの戦いが苦手なのです。
そういったフォロワーに対しては、実質的に5コストのカードを2枚使ってやっと倒している計算になります。

もちろん2コストで《聖なる王の獅子》を出すこともできますが、そうなると《聖獅子の結晶》が減ってしまいます。相手が《聖獅子の結晶》を浪費できるくらいに引いていることもありますが、基本的には攻撃力4体力5のフォロワーを簡単には突破できないと考えていいでしょう。

これはレアケースでもなんでもなく、たとえば対エルフ戦で《聖なる王の獅子》を出せるようになっても《ホワイトヴァナラ》が突破できないといったシーンはよく見られます。
《聖なる王の獅子》の量産は勝ちパターンではあっても必勝パターンではないのです。
「天狐ビショップ」が相性差をくつがえして勝つときも《七宝石の姫・レ・フィーエ》《詠唱:白牙の神殿》による回復と展開に「聖獅子ビショップ」の対応が追いつかないパターンがほとんどです。

ですが、ただ大型の守護フォロワーを出せばいいというわけではありません。
こちらが守護フォロワーを出し、相手がそれを《聖なる王の獅子》2体で処理する。これではこちらがカードを1枚失っているだけです。

この状況で守護フォロワーに求められるのは、攻めに転じられることです。たとえば疾走を持っているとか、コストが非常に軽くほかの強力カードとセットで使いやすいとか、そういう長所を持っている必要があります。

疾走と守護を持っていて、かつ攻撃力4、体力5以上のスタッツを持つカード。
そんな都合のいいカードがビショップにあるのでしょうか?

あります。

《ヘヴンリーナイト》です。
もちろん、これはよく使われているカードですから、多くの方が想像できたと思います。
実際《ヘヴンリーナイト》を採用した「天狐ビショップ」は「聖獅子ビショップ」との相性を改善しつつ、ミラーマッチやアグロデッキに対しての強さも下がらない、いいカードでした。

しかしマスターピースと呼べるカードはほかに存在していたのです。

それが彼です。

そう、《イーグルマン》。そして、彼を投入したデッキリストがこちらです。

私はこのデッキを「ゴールド獅子天狐」と名づけました。
獅子もちゃんといます。

「ゴールド獅子天狐」の特徴は次の通りです。

  1. 序盤の要となる低コストカードをニュートラル・カードに統一。ニュートラルに回復できるカードはたくさんあるため問題はない。
  2. 《黄金郷の獅子》《三月ウサギのお茶会》《イーグルマン》のパッケージを採用することで、コストを踏み倒しながらの重量感のある多面展開が可能に。
  3. 優秀なドローソース群は据え置くことでキーカードへのアクセス率は変わらず。

「天狐ビショップ」の強みはそのままに、ニュートラル・カードを軸にした破壊力のある展開が可能な構成となっています。
また、後半引いた《詠唱:白牙の神殿》《黄金郷の獅子》で出して即破壊することもできるため、大型フォロワーを同時展開することもできます。

「聖獅子ビショップ」への相性については、前述したとおり「聖獅子ビショップ」の苦手とするスタッツを持つ《イーグルマン》はもちろん、《ブリキの兵隊》《黄金郷の獅子》も攻撃力4、体力5以上になっており「聖獅子ビショップ」側は簡単に対処できません。

さらに改善されたのは、対聖獅子への相性だけではありません。
対「アグロエルフ」、対「人形ネメシス」についても、既存の《天狐の社》パッケージはそのまま採用しており、さらに《ケリュネイア》《内気なアルミラージ》などの自身を回復するフォロワーでなくリーダーを回復させるフォロワーを採用しており、さらに《イーグルマン》もいるのでさらに相性がよくなっています。

対「ミッドレンジロイヤル」でも、相手が苦手とするコスト踏み倒しによる爆発的な展開があるため《天狐の社》による盤面制圧以外の勝ち筋を手に入れることができました。各種ロイヤルデッキがそういった展開力の高いデッキに弱いというのは「ドロシーウィッチ」とロイヤルで戦ったことがある方ならよくおぼえているのではないでしょうか。

ミラーマッチについても、アミュレットの破壊手段や《テミスの粛清》といったカードがない代わりに大型フォロワーの連続展開という戦法が取れるので、ガードが下がっているわけではありません。

……と、ここまで読んで『このデッキは「天狐ビショップ」の完全上位互換なの?』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、このデッキにも弱点はあります

それは通常の「天狐ビショップ」に比べて安定性が低いという点です。

1,2回コストが下がれば及第点になる《イーグルマン》はともかく、《黄金郷の獅子》については9コストと非常に高く、これらを序盤に複数引いてしまうとうまく動けず、そのまま負けという展開もあります。
それを防ぐために、可能な限り2コストフォロワーを採用、追加のドローとして《純心の歌い手》も取るなどの工夫はしていますが、通常の「天狐ビショップ」に比べて事故りやすさはかなり高くなっていました。

そのため『「聖獅子ビショップ」に「天狐ビショップ」で勝ちたい』だけなら問題はありませんが、総合的な勝率という点で絶対に「天狐ビショップ」より優れているかについてはわかりませんでした。

しかし、自分なりに環境を定義し、各デッキの特徴をピックアップし、試行錯誤の末に有効なカードを見つけ出して当初の目的である「聖獅子ビショップ」に強い「天狐ビショップ」を作るという目的は果たせました。

《黄金郷の獅子》《イーグルマン》は、今の環境ではあまり見ることはありません。
しかし、かつては当然のようにデッキに採用され、活躍していました。
皆さんもぜひそういったカードの強さを再発見してもらえればと思います。

◆終わりに

だいぶ長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
今回は環境の推移からそれを読んでのデッキ構築、そして実戦データからのデッキ改良までの流れをお話ししました。

本来ならば実戦のレポートとともにお届けするべきなのかもしれませんが、今回は意図的にこの部分を省略しました。
もちろん大会などに持ち込むものであれば、構想の段階からデッキを実際に動かして確かめることになるのですが、実戦で細かい機微まで確かめるには数十戦では足りないと思っており、一人ないし数人が持てる時間を考えると、調整段階では1~3戦程度回して考えに大きな誤りがないかを確認する作業に留めることが多いです。

「獅子天狐」などは構想の段階では高得点でしたが、まさに実戦に持っていった結果、致命的であることが数戦でわかったパターンです。デッキとしてはおもしろくて好みだったので、どうにかうまいこと組めないかと試行錯誤して100戦ぐらいプレイしました。

もちろん、今回あげた私の調整方法が絶対正しいというわけではありません。『Shadowverse』をプレイできる時間や環境は人それぞれ異なります。
そのなかでこの記事が、皆さんのデッキ調整における引き出しの一つにでもなれたら幸いです。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。