【FFTCG】安定感の影に潜む「負けの再現性」からの脱却 -「第四期名人戦」東北予選優勝者インタビュー-

『FINAL FANTASY TRADING CARD GAME』の公式記事連載。今週は「第四期名人戦」東北予選で優勝したひれひれ(∵)さんのインタビューをお届けします。

◆はじめに
みなさん、こんにちは!
『FFTCG』公式記事ライターのたるほです。

7月15日に「対戦デッキ スターターセット ゴルベーザ対セシル」が発売されました。
『FFTCG』では初となる『FFIV』にフォーカスしたスターターセットということで、楽しみにしていたプレイヤーの方も多かったかと思います。
このセット専用の新規カードもあり、新たなデッキの可能性を感じずにはいられないですね。

8月12日発売の新ブースターパック「反撃の雄たけび」のプレビューも始まっており、毎日公開される新カードにワクワクする日々ですが、「光の使者」環境もまだまだ終わってはいません。
今回は「第四期名人戦」東北地区予選で優勝したひれひれ(∵)さんにインタビューを行ない、新たな方向性が見出された「風単」デッキについてお話を聞きたいと思います。

それでは、始めていきましょう!

ひれひれ(∵)

関東を中心に活躍するプレイヤーで、先日の「MASTERS2021 THE AFTER」では優勝を果たした実力者。
「THE AFTER」に続いて「第四期名人戦」東北地区予選でも優勝し、公式トーナメントで立て続けにトロフィーを獲得している、
今環境でもっとも波に乗っているプレイヤーと言えるだろう。
メタゲームへの鋭い視点に加え、豊富なプランを相手によって使いわけるプレイスタイルが印象的。

 

◆「風単」の新たな可能性。「風単【ライトニング】」
――「第四期名人戦」東北地区予選優勝おめでとうございます。「MASTERS2021 THE AFTER」から続けての優勝ということで、今シーズンは絶好調でしたね。
ひれひれ(∵):ありがとうございます。

――今回ひれひれ(∵)さんが使用されたデッキは「風単」ですが、個人的にひれひれ(∵)さんはアグロ志向のプレイヤーというイメージだったので、一般的にコントロールデッキに分類されがちな「風単」で優勝したと聞いたときは「意外なデッキを使っているな」と驚きました。今回「風単」を使おうと思ったのにはどういった理由があるのでしょうか?

ひれひれ(∵):今回私が「風単」を使ったのは、これまで自分が使ってきたデッキとは方向性が違うデッキに挑戦しようと思ったからです。

たるほさんが言われるように、私自身アグロ志向のプレイヤーであるという自覚があったので、コントロールデッキの代表格である「風単」を自分なりに構築してみたのが今回のデッキになります。

●デッキリスト:「風単【ライトニング】」(「第四期名人戦」東北地区予選優勝 フォーマット:スタンダード)

カード番号 カード名 枚数
フォワード(26枚)
【PR-110】 《ライトニング》 2
【12-037L】 《アーシェ》 3
【14-057H】 《ローザ》 2
【16-050H】 《セオドア》 1
【3-056H】 《ジタン》 2
【1-080H】 《バッツ》 3
【14-042L】 《雲神ビスマルク》 3
【14-045H】 《シン》 2
【16-051L】 《セシル》 3
【16-058R】 《フィーナ》 2
【11-054R】 《謎の男》 2
【3-049C】 《イザナ》 1
バックアップ(14枚)
【8-058R】 《ノルシュターレン》 3
【16-060C】 《マダム・マム》 2
【16-055C】 《チョコボ・サム》 1
【13-043C】 《スティルツキン》 1
【12-038H】 《アルテア》 1
【13-046R】 《パブロフ》 1
【12-048R】 《チョコラッテ》 1
【11-056R】 《フィオナ》 1
【6-047C】 《白魔道士》 3
召喚獣(3枚)
【10-055H】 《チョコボ》 3
モンスター(7枚)
【16-043H】 《アトモス》 2
【13-037C】 《オチュー》 2
【14-049H】 《テュポーン》 3

――この「風単」では特徴的だと感じた要素が2つあります。まず一番は【PR-110】《ライトニング》の採用です。「風単」は光/闇属性のカードに依存しない構築のデッキだという認識があったため、これには驚かされました。【PR-110】《ライトニング》はどういった意図で採用されたのでしょうか?


ひれひれ(∵):「Opus XIV ~クリスタルの深淵~」で登場して以来、風属性デッキのフィニッシャーは【14-042L】《雲神ビスマルク》imageが務めてきましたが、「風単」ではこのカードをサーチする手段がないため、デッキのゴールとなる【14-042L】《雲神ビスマルク》imageを引き込むことができるかが不確定であるという弱点があります。


「風単」を使っていて、序盤、中盤はベストな展開でゲームを進められたのに、【14-042L】《雲神ビスマルク》imageを1枚も引けなくて負けてしまったという経験をしたことがある人は多いのではないかと思います。

これを解消するためのアプローチとして、【14-042L】《雲神ビスマルク》image同様に自身のフォワードを手札に戻せる【PR-110】《ライトニング》を採用し、【14-042L】《雲神ビスマルク》imageがいなくても戦える構築を目指しました。

また「風単」はこちらが展開しきる前に相手のアグロデッキに詰め切られやすいという弱点があったのですが、【PR-110】《ライトニング》はアクションアビリティがアグロデッキに対して強く、フォワードをダルにし続けることで相手をこちらの土俵に引きずり込み、ゲームのペースを握れる強さを持ったカードでした。

東北地区予選は「火氷」のようなアグロデッキが多かったこともあり、環境に【PR-110】《ライトニング》が刺さったことも今回優勝できた大きな要因だと思います。

もともと【PR-110】《ライトニング》はテキストが自分好みで、単体で7点与えられるポテンシャルを持つカードだと感じていたので、このカードが大会で使えるようになってからは、どこかで活躍させてみたいと考えていました。今回優勝という結果を残すことができてうれしかったですね。

――【PR-110】《ライトニング》はデッキのもう1つのゴールになるカード、言うなればこのリストは「風単【ライトニング】」とも言えるデッキということですね。

もうひとつ気になったポイントが【16-056R】《デブチョコボ》imageの不採用です。「光の使者」環境では【16-056R】《デブチョコボ》imageを主軸とした「風単【デブチョコボ】」が活躍してきましたが、このデッキではなぜ【16-056R】《デブチョコボ》imageを採用しなかったのでしょうか?


ひれひれ(∵):「風単【デブチョコボ】」はゲーム序盤から【16-056R】《デブチョコボ》imageを展開しアドバンテージを稼ぐデッキで、【3-049C】《イザナ》imageや【16-055C】《チョコボ・サム》imageといったサーチカードの存在により高い確率で【16-056R】《デブチョコボ》imageをキャストできるため、序盤におけるベストムーブの再現性が非常に高く、安定した強さを発揮できます。


しかし、再現性が高いということは、言い換えればデッキの挙動が固定されてしまっているということです。

デッキとしてまず【16-056R】《デブチョコボ》imageを展開することありきで動かなければならないため、その動きに【14-116H】《マシュリー》imageによるバウンスや【16-133S】《ブラスカ》imageでの除去を合わせることで容易に対策することができてしまいます


それを嫌ってバックアップの展開を優先するプランを取ることも不可能ではありませんが、そうするとデッキを【16-056R】《デブチョコボ》imageに寄せることで得た本来のポテンシャルを発揮することができなくなってしまいます。

こうした再現性の高さが、“負けパターンの再現性”も高めてしまうことが「風単【デブチョコボ】」の弱点なのでは?と考え、相手の状況に合わせ柔軟なプランニングができる「風単」を目指したのがこのデッキのスタートでした。

――序盤の動きを固定化する【16-056R】《デブチョコボ》imageを採用せず、序盤の選択肢を増やせる【PR-110】《ライトニング》を採用したことで、柔軟なゲームレンジを取れるようにしたわけですね。

ひれひれ(∵):もちろん「風単」である以上バックアップはしっかり置けたほうが強いので、このデッキでは【16-056R】《デブチョコボ》imageに代わるアドバンテージ獲得手段として、【12-037L】《アーシェ》imageを中心にした、キャスト回数を参照してカードアドバンテージを得るギミックを採用しています。

【12-037L】《アーシェ》imageや【14-057H】《ローザ》imageなど、キャストギミックにまつわるフォワードは相手のアビリティに選ばれない効果を持つものも多く、フィールドに残りやすいので、継続的にアドバンテージをもたらしてくれます。これによりロングゲームを見越したプランを取れるのもこのデッキの長所だと考えています。


ロングゲームに持ち込むことでより多くのカードにアクセスできるようになり、【14-042L】《雲神ビスマルク》imageor【PR-110】《ライトニング》+【3-056H】《ジタン》image・【14-049H】《テュポーン》imageのコンボでゲームを制圧する、風属性の必勝パターンに持っていきやすくなります。


――【14-057H】《ローザ》imageなどは「Opus XIV」環境初期の「風単」で主軸になっていたカードですし、どこか懐かしさを感じる構築でもあります。【16-051L】《セシル》imageや【16-050H】《セオドア》imageの登場でさらに強化されたカードですね。

ひれひれ(∵):【14-057H】《ローザ》imageは、はーらーさんに勧められて採用したカードです。

大会中も5キャスト達成したタイミングで【16-051L】《セシル》imageがめくれてイージーウィンできたりと悪くない選択肢でしたが、しいて言うなら【16-043H】《アトモス》imageを3枚、【14-057H】《ローザ》imageは1枚の比率にするべきだったかなと思います。


【16-051L】《セシル》image自体はキャストギミックとは関係ないのですが、やはりカードパワーが高く、序盤でバックアップが置けなかったときなどに【16-051L】《セシル》image→【PR-110】《ライトニング》とつないでプレッシャーをかけるプランなどで活躍してくれました。


実際にこのデッキで戦ってみるまでは、キャストギミックを用いたデッキは「風氷」のほうが一般的ですし、デッキ自体が「風氷」の下位互換的なものになってしまうのではないかという懸念もありました。

しかし「風単」にしたことで【1-080H】《バッツ》imageが採用できるようになり、【PR-110】《ライトニング》と合わせてデッキ全体のパワーラインが高くなりアタックしやすくなったという「風単【ライトニング】」ならではの強みなどもあって、自分の想像以上の仕上がりになったかと思います。


――【16-056R】《デブチョコボ》imageを採用しなくなったことで、バックアップの構成もガラリと変わった印象です。14枚という少なさも採用枚数を絞ることを意識した構築によるものだと感じますが、どういった意図からこうした構築になったのでしょうか?

ひれひれ(∵):バックアップについては2~3枚展開しておいて、それ以降はキャストギミック用に手札にキープしておくパターンが多かったので、無理に引く必要がないと考えていました。

【16-043H】《アトモス》imageが登場したことで、バックアップは最低2枚あれば問題なく毎ターンカードをキャストするためのCPを獲得できるようになっています。

また、風属性にはバックアップをサーチできるバックアップも多いことと、十分にそろった後でバックアップを引きすぎるとデッキの攻撃力を下げてしまうので、ギリギリまで採用枚数を絞った構築を目指しました。

状況に応じた豊富なサーチ先を持つ【8-058R】《ノルシュターレン》imageは、バックアップをサーチできるバックアップのなかでも最強クラスのカードです。

このデッキでは主に、序盤から【8-058R】《ノルシュターレン》image→【13-043C】《スティルツキン》image→【13-037C】《オチュー》imageと動き出し、序盤からキャスト数を稼ぐ動きを積極的に狙っていきます。


【16-055C】《チョコボ・サム》imageは【3-049C】《イザナ》image同様、バックアップと召喚獣のどちらにもアクセスできる優秀なカードですね。

そして【16-060C】《マダム・マム》imageも確定ではありませんが、バックアップにアクセスできる可能性の高いカードです。


ざっくりとした感覚ですが【8-058R】《ノルシュターレン》image、【16-055C】《チョコボ・サム》image、【16-060C】《マダム・マム》imageは初手から引きたいカードなので、あわせて6枚欲しいと思ってそれぞれ3枚、1枚、2枚という構成で採用しています。

――個人的には【6-047C】《白魔道士》imageが3枚採用されているのは強い意志を感じました。
ひれひれ(∵):ブレイクゾーン対策となる【6-047C】《白魔道士》imageは現環境の有力デッキに対して有効で、無駄になるシチュエーションがほとんどありません。デッキを作るにあたって「風単【デブチョコボ】」のレシピをいろいろ見たのですが、これより適したカードが見当たらなかったので3枚採用しました。


――「THE AFTER」で優勝したときの「火土【夜会ブラスカ】」でも感じましたが、ひれひれ(∵)さんの構築は既存の強力なテーマから軸をずらしたアプローチをされていることが多いなと思います。デッキ構築の際に心がけていることなどはあるのでしょうか?

ひれひれ(∵):デッキ構築をする際は、

・1から自分で作ること
・バックアップに依存しないプランを準備すること

の2つを意識して構築するようにしています。

ファンサイトやSNSを通じてデッキを調べることも多くありますが、その際もどういうコンセプトのデッキなのか自分のなかで咀嚼して、それを自分なりに考えてかたちにすることを意識しています。

今回で言えば、「風単」の【14-042L】《雲神ビスマルク》imageで盤面を制圧することをコンセプトにするデッキに対して、プレイを簡単に、かつデッキパワーを落とさないようなアプローチをしたいと考え【16-056R】《デブチョコボ》image軸からキャスト軸にずらし、そのうえで【16-051L】《セシル》image→【PR-110】《ライトニング》というバックアップを必要としないゲームプランを盛り込むという構築をしました。

こうして1からデッキを作ることで「このデッキがゴールへ至るためにどういったルートがあるのか」をひととおり把握できるので、プレイをする際もっとも適切なルートは何かということを見落とさずにゲームに臨むことができます。

――自分の使っているデッキのポテンシャルを知っておくこと、そして、そのうえでバックアップが引けなかったときのプランBを用意しておくということですね。

では続いて、プレイングについてうかがおうと思います。ひれひれ(∵)さんのプレイングは、僕もアグロデッキを好んで使うプレイヤーとして見習いたい点が多いと感じるのですが、そのなかでも特に“静”から“動”への切り替えリスキーなプレイ・大胆なプレイに舵を切るタイミングが抜群だと思っています。

さまざまなゲーム展開のなかでの押し引き、アクセルを踏み込む判断などについて意識していることは何かあるのでしょうか?

ひれひれ(∵):私は基本的にプレイ中、自分がこうしたら相手はどう動くかな? ということを常に考えています。自分の取るアクションと、それに対する相手のリアクションを想定して動いていくわけですね。そのうえで、相手のプレイの軸をずらすことは、かなり意識しているプレイングです。

――プレイの軸をずらす、とは具体的にどういったことでしょうか?
ひれひれ(∵):簡単に言えば、相手にこちらへの対処を強いるプレイのことです。

今回の「風単【ライトニング】」ではバックアップ1枚から【16-051L】《セシル》image→【PR-110】《ライトニング》を出すプレイなどがこれに該当します。

本来「風単」はバックアップの展開を優先するデッキなので、相手も「バックアップを並べ終わるまでは仕掛けてこないな」という認識のもとゲームを進めてくるはずです。

そこに放置できないフォワードを展開することで、相手は除去で応戦しなければならなくなり、こちらのプレイに付き合った結果、本来想定していたプレイより展開の質が落ちてしまいます。

トーナメントを勝ち上がってくるような強いプレイヤーは、こうした仕掛けにも動揺することなく最適な回答を出してきますが、それでも対処のためにリソースを失って手札の質が下がったり、費やしたリソースを回復するため数ターン動きが止まることで、そこに付け込みこちらの展開を進めることが可能です。

もちろん、これはすべてのプレイヤーに通じるわけではありません。

たとえば、普段よく対戦をしているはーらーさんなどは、自分のプレイを頑として曲げないプレイヤーなので(笑)、こうした仕掛けが通用しないことがほとんどです。

しかし、対面するプレイヤーのスキルやスタイルに応じて、どういった仕掛けで軸をずらしていくか、こちらがゲームの主導権を握れるように揺さぶっていけるかが重要だと考えています。変則的なプレイにはこちらもリスクを負いますが、こうした駆け引きが難しいところであり、またおもしろいところだと思いますね。

――ただ適切なカード選択をするだけではなく、デッキやプレイングから相手を揺さぶる策を考え、能動的に手を繰り出していくのがひれひれ(∵)さんの駆け引きの巧さにつながっているんですね。僕もそういう“仕掛け”の腕を磨いていきたいと思います。ありがとうございました。

◆おわりに
今回は「第四期名人戦」東北地区予選を優勝したひれひれ(∵)さんへインタビューを行ないました。

「風単【ライトニング】」が示した新たな可能性の裏には、ひれひれ(∵)さんが武器とする駆け引きの強さを構築に反映させるための努力がありました。

「光の使者」環境での、続けての公式トーナメント優勝という結果も納得の実力の持ち主ですね。

僕自身、話を聞くなかで勉強になることも多く、今後さらに見習いたいと思ったお話でした。

「光の使者」環境も残りわずか、最後まで楽しんでいきたいですね。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう!