『FINAL FANTASY TRADING CARD GAME』の公式記事連載。今週は「MASTERS22-23」で優勝したholyさんに「風単忍者【FFIV】」についてお話をうかがいました。
◆はじめに
みなさん、こんにちは!『FFTCG』公式記事ライターのたるほです。
今週も「MASTERS 22-23」の優勝者にインタビューを行ない、最新のデッキテクをお届けしていきたいと思います。
今回優勝デッキを取り上げる京都大会は岐阜大会の翌日、2日連続での開催となりました。会場となったハートピア京都の真北には、東西約700m・南北約1300mの広大な敷地を誇る国民公園・京都御苑があり、古都京都の観光の中心となっています。そんな会場で開催された京都大会の決勝戦はholyさんの「風単【忍者FFIV】」対NOBUさんの「火土【アバランチ】」の対決となり、攻撃的な「火土【アバランチ】」を「風単【忍者FFIV】」が華麗にさばききるかたちでの優勝となりました。
ここでは「MASTERS 22-23」京都大会でみごと優勝を果たしたholyさんにインタビューを行ない、変幻自在の戦略を持つ「風単【忍者IV】」デッキと、オリジナルデッキを選択する強さについてお話をうかがいました。
◆変幻自在なゲームプランを使いこなす! 「風単【忍者FFIV】」
――「MASTERS 22-23」京都大会、優勝おめでとうございます。
holy:ありがとうございます。
――今回使われた「風単【忍者FFIV】」はほぼ風属性で構築された【忍者】デッキということで、当日僕も会場で拝見しましたが非常にオリジナリティのあるデッキだと感じました。まずは「風単【忍者FFIV】」を構築した経緯についてお聞きしていこうと思うのですが、このデッキはどういったコンセプトからスタートしたのでしょうか?
holy:実はこのデッキは「風単【忍者FFIV】」と呼ばれていますが、デッキのスタートとなったカードは【14-042L】《雲神ビスマルク》なんです。むしろ【14-042L】《雲神ビスマルク》ありきのデッキなので、「風単」や「風氷」などのデッキと原点は同じだと考えてもらって大丈夫です。
「風単【忍者FFIV】」(「MASTERS 22-23」京都大会優勝 フォーマット:スタンダード)
カード番号 | カード名 | 枚数 |
フォワード(31枚) | ||
【11-045H】 | 《エッジ》 | 3 |
【17-103R】 | 《ユウギリ》 | 3 |
【11-051C】 | 《ツキノワ》 | 3 |
【16-051L】 | 《セシル》 | 3 |
【16-050H】 | 《セオドア》 | 3 |
【11-054R】 | 《謎の男》 | 3 |
【14-042L】 | 《雲神ビスマルク》 | 3 |
【16-058R】 | 《フィーナ》 | 3 |
【17-044R】 | 《オニオンナイト》 | 2 |
【3-056H】 | 《ジタン》 | 1 |
【11-094C】 | 《ザンゲツ》 | 1 |
【11-006C】 | 《ゲッコウ》 | 1 |
【14-129H】 | 《ゲッショー》 | 1 |
【17-055H】 | 《テュポーン》 | 1 |
バックアップ(14枚) | ||
【8-057C】 | 《忍者》 | 3 |
【12-050C】 | 《忍者》 | 3 |
【11-060C】 | 《マイナ》 | 3 |
【17-049C】 | 《シド・ポレンディーナ》 | 3 |
【16-063R】 | 《ローザ》 | 2 |
召喚獣(3枚) | ||
【10-055H】 | 《チョコボ》 | 3 |
モンスター(2枚) | ||
【14-049H】 | 《テュポーン》 | 2 |
――風属性のコントロールデッキから派生したデッキということですね。しかし現在主流となっている、いわゆるキャスト型の「風単」や「風氷」と違い【17-063R】《ルッソ》や【12-038H】《アルテア》などのカードが採用されていません。これらのカードではなく【忍者】や【カテゴリ(IV)】のギミックを採用したのにはどういった狙いがあるのでしょうか?
holy:「風単【忍者FFIV】」には従来の「風単」や「風氷」にはない大きな強みが2つあると考えています。
1つは、バックアップをブレイクできる手段が豊富という点です。
風属性にはこれまでも【1-088C】《弓使い》や【8-057C】《忍者》といったコスト3以下のバックアップをブレイクする手段がありましたが、「光の使者」で新たに【16-050H】《セオドア》が登場したことで、コスト4以上のバックアップもブレイクすることが可能になりました。
バックアップをブレイクされる痛さはみなさんよくご存じだと思うのですが、最近はその強さがそれほど意識されていないと思ったんです。たとえば以前「土水【ドーガ】」が活躍していたころは、【12-068H】《フェンリル》を意識してコスト4以上のバックアップを採用しない構築が当たり前に行なわれていましたが、現在はそれを意識して構築されているデッキがほとんどありません。
逆に【15-023R】《ウェライ》をメインギミックに据えた「土氷」のようなデッキが活躍するなど、高コストのバックアップを採用したデッキも多く、バックアップをブレイクされることはあまり考慮されていないように感じます。【15-023R】《ウェライ》というカードはキャストのために費やしたCPを取り戻すのに数ターンかかるため、その前にブレイクされると大きく損をしてしまいます。
また、それ以外にも【8-058R】《ノルシュターレン》や【13-093H】《サラ》などの4コストバックアップからバックアップをサーチする動きを前提とした構築のデッキも多く、そういったデッキに対して【16-050H】《セオドア》の存在は非常に有効でした。
【11-045H】《エッジ》は【8-057C】《忍者》を無理なく強く使えるという点では非常に相性がよく、【カテゴリ(IV)】を持つため【16-050H】《セオドア》のアビリティでもカウントできるなど、バックアップを攻める戦略にとても噛み合っているカードでした。
――バックアップをブレイクできるギミックをデッキに組み込みたいという前提があったということですね。もう1つの強みはなんでしょう?
holy:もう1つの強みは、風属性の課題であるアグロデッキへの解答を持てるという点です。自分のイメージで「風単」について考えていたときに、「火土【アバランチ】」のような速いデッキに速攻をしかけられたときにどうやったら勝てるだろうと考え、そこで思い当たったのが【11-045H】《エッジ》でした。
「風単」のようなフォワードの展開を重視するデッキは序盤のシステムフォワードを対処する手段に乏しいのですが、それに対して盤面の展開を補助しつつ「手裏剣カウンター」によって相手のフォワードを対処できる【11-045H】《エッジ》は非常に有効でした。
アグロデッキに対する風属性の課題を【11-045H】《エッジ》でクリアしつつ、コントロールに対しては【11-045H】《エッジ》とシナジーのある【8-057C】《忍者》や【16-050H】《セオドア》によるバックアップのブレイクで優位に立てるところが、ほかの風属性デッキにない大きな強みだと思います。
――ほかの風属性のデッキにない強みの多さが、「風単【忍者FFIV】」の多彩なプランにつながっているということですね。
holy:いまの風属性って実は何でもできるんですよ。ダメージによるブレイクもできるし、コスト4以上のキャラクターは直接ブレイクできる手段もあって、ブレイクできないカードに対しては【14-049H】《テュポーン》もある。【8-057C】《忍者》と【16-050H】《セオドア》ですべてのコスト帯のバックアップもブレイクできて、【3-056H】《ジタン》で手札にも干渉できる。モンスターのブレイクや、ブレイクゾーンの除外もできる。
そこに【忍者】ギミックが加わることで、【11-094C】《ザンゲツ》のダルによるフィニッシュや【17-103R】《ユウギリ》でコスト4以下のブレイクもできるようになっている。この“なんでもできる”の集大成が「風単【忍者FFIV】」だと考えています。
――holyさんは「第四期名人位決定戦」でも【忍者】デッキを使いベスト12に入賞されていましたが、以前から【忍者】デッキ自体を愛用されていたのでしょうか?
holy:もともと【11-045H】《エッジ》に関しては「Opus XI ~ソルジャーの帰還~」の発売以降ずっと使ってきたカードで、新カードが出るたびにデッキに採用できるカードはないか毎回チェックするくらい思い入れのあるカードでした。今回のデッキに関しても「光の使者」発売の段階で【16-050H】《セオドア》に注目した構築は考えていたのですが、当時は課題が多く完成には至っていなかったのです。
――「反撃の雄たけび」で新カードが追加されたことでその点が補完されたと。
holy:そうですね。【17-103R】《ユウギリ》と【17-044R】《オニオンナイト》の追加は非常に大きかったです。
【17-103R】《ユウギリ》は【11-045H】《エッジ》でコストを軽減することにより実質0コストで運用することができ、バックアップの【忍者】もサーチできるため、【11-045H】《エッジ》→【17-103R】《ユウギリ》→【11-060C】《マイナ》と展開することで1ターン目からフォワード2枚とバックアップ1枚を無理なく展開するプランが取れるようになり、スタートダッシュの爆発力が大きく向上しました。
【17-044R】《オニオンナイト》は、相手の行動に割り込んでこちらのフォワードを展開できるという挙動が非常に強力です。たとえば「風単」や「風氷」がカードを7枚キャストしての【17-063R】《ルッソ》による全体除去を狙ってくるとき、連続キャストに割り込んで【3-056H】《ジタン》を出してキャストする予定のカードを捨てさせたり、「【モールズの夜会】」の【16-080H】《マダム・エーデル》に割り込んで【17-055H】《テュポーン》を出して対象をブレイクゾーンから除外することができます。
また「反撃の雄たけび」の発売とともに施行された【14-116H】《マシュリー》の禁止も「風単【忍者FFIV】」強化の追い風になりました。
「光の使者」当時の環境では【14-116H】《マシュリー》の流行とともに、【14-116H】《マシュリー》でコストが軽減される【12-002H】《アマテラス》が非常に多い環境となっていました。このコスト軽減された【12-002H】《アマテラス》が2コストでキャストできるというのがやっかいで、相手の手札が1枚の状況でも【14-116H】《マシュリー》での1ドローからそのまま【12-002H】《アマテラス》のキャストまでつなげられてしまいます。これにより【16-051L】《セシル》などが簡単に対処されてしまうため、【14-116H】《マシュリー》1枚の存在により、オートアビリティを持つフォワードのキャストにリスクが伴う環境となっていました。
ですが、「反撃の雄たけび」環境では【12-002H】《アマテラス》をキャストするためにはアクティブ状態のバックアップ1枚+手札2枚か、手札3枚が必要です。【12-002H】《アマテラス》を打ってきそうなデッキがバックアップを1枚アクティブにしている状況では、こちらは【12-002H】《アマテラス》で損するカードをキャストすることは絶対にしません。【12-002H】《アマテラス》を取り巻く駆け引きでこちらが主導権を握りやすくになったことも、このデッキを使ううえでの大きな変化と言えます。
――風属性の器用さが高まったことと、環境の変化が「風単【忍者FFIV】」に追い風だったわけですね。次に、個々のカードについても質問させてください。ここまでの話から【3-056H】《ジタン》は非常に重要度が高いカードだと感じましたが1枚のみの採用となっています。サーチ手段がないため狙った状況で使うことは難しそうですが、このカードはなぜ1枚にとどまっているのでしょうか?
holy:【3-056H】《ジタン》に関してはデッキスロットの兼ね合いで1枚しか採用することができませんでした。ただ、デッキに1枚入っているということが重要で、相手の目線に立ったときにブレイクゾーンに【3-056H】《ジタン》が見えていれば【3-056H】《ジタン》でキーカードを捨てられるかもしれないという意識を持たせることができますし、特にコンボを前提としたデッキには捨てさせられることを前提としたプレイを強要できます。
逆にこちらが絶対に捨てさせたいカードがあるという場面では【14-129H】《ゲッショー》をサーチするプランもあるので、絶対に【3-056H】《ジタン》が必要というわけではありません。デッキに入っていることに価値があるお守りのようなカードだと考えています。
――【忍者】ギミックにかかわるカードでは【11-094C】《ザンゲツ》や【11-006C】《ゲッコウ》も1枚のみの採用となっています。【忍者】デッキとしてはかなり異色な雰囲気を受けましたが、これはどういった理由なのでしょうか?
holy:この2種類と【14-129H】《ゲッショー》については【11-045H】《エッジ》がいなければキャストすることができないので、それ以外のプランではゲームに必要な動きにカウントできない、いわば死に札となってしまいます。
【11-060C】《マイナ》、【17-103R】《ユウギリ》、【17-049C】《シド・ポレンディーナ》などサーチ手段が豊富で、【11-054R】《謎の男》による回収も可能なため、スロットを大きく割かなくとも十分役割を果たせると考え、プランB以降で邪魔にならないように1枚のみの採用にとどめています。
――次に【17-055H】《テュポーン》の採用についてです。同名カードである【14-049H】《テュポーン》が採用されているうえ、類似の効果を持つ【11-140S】《カダージュ》も見送っての採用ですが、これにはどういった意図があったのでしょう?
holy:【17-055H】《テュポーン》については【17-044R】《オニオンナイト》からの選択肢を増やしたかったことと、ブレイクゾーンに触れないことが現環境では致命傷になるだろうという考えがあったので採用しました。先述のとおり【17-044R】《オニオンナイト》から出せることで、多くのデッキに対する妨害手段として非常に優秀でした。
もちろん【11-140S】《カダージュ》でも同じ動きを狙うことはできるのですが、こちらは闇属性のカードであるため、初手に引いてしまった場合【11-045H】《エッジ》→【17-103R】《ユウギリ》→【11-060C】《マイナ》と動きたいときにコストとして捨てることができません。光属性の【PR-110】《ライトニング》なども相性がよく直前まで候補に挙がっていましたが、初手を想定したときに同様のリスクを抱えることを懸念し、光/闇属性のカードは採用を見送っています。
また【17-055H】《テュポーン》の強みとして、アクションアビリティで手札に戻れることが挙げられます。これを相手のターン中に使うことで【14-042L】《雲神ビスマルク》のカードを引くアビリティを能動的に発動させることができるのは、このカードを大きく評価したポイントです。
【14-049H】《テュポーン》を出したいときも自力でフィールドから手札に戻れるので、同名カードが重複することのリスクは高くないと考えました。
――「第四期名人位決定戦」で使用されていたデッキから変わったカードについてもお聞きしたいです。
holy:採用を見送ったスロットは【12-013C】《忍者》と【17-054R】《ティアマット》、それと【17-044R】《オニオンナイト》も1枚減らしています。まず【17-044R】《オニオンナイト》については先述のように【16-050H】《セオドア》を優先する都合上、3枚目のスロットを譲るために1枚減らしています。
【17-054R】《ティアマット》はもともと【14-042L】《雲神ビスマルク》のように自分のキャラクターを手札に戻し使い回せるうえ、5点目のダメージを受けたときにブレイクゾーンから出せるのがかなり強いのではないかと考えて採用していたカードです。ですが、あらためて考えたとき自分がダメージを5点受けながら戦うような局面ではほとんど押し負けているだろうと考えたため、「第四期名人位決定戦」終了直後にデッキから外しました。
【12-013C】《忍者》は【16-058R】《フィーナ》を使ううえで火属性のバックアップは邪魔になってしまう場面が多く、【17-063R】《ルッソ》や【15-082H】《ヘカトンケイル》の全体8000ダメージから【16-051L】《セシル》と【16-050H】《セオドア》を同時に守れる【16-063R】《ローザ》のほうがデッキへの貢献度が高いと考えスロットを譲りました。
――【16-058R】《フィーナ》に関しては3枚に増量していますね。
holy:【16-058R】《フィーナ》は、現在非常に重要度が高いカードだと思っています。特に【16-030L】《シャントット》によるブレイクゾーンからのカード回収を止められることに価値があると考えていて、これありきで序盤にキーカードをコストにする相手のプレイに対して、プランを1枚で崩すことができます。3枚採用した理由としては、2枚だと自分のプレイが正しかったかどうか判断することができないと考えたからです。
――それはどういうことですか?
holy:たとえば【16-058R】《フィーナ》を2枚しか採用していない場合、序盤にコストとして捨ててしまい重要な局面で引けなかったときに、【16-058R】《フィーナ》を3枚入れていればよかったと考えるでしょう。
これは構築に対する反省であり、その局面に至るまでの自分のプレイが正しかったのかどうかは見直すことができません。ですが最大限の3枚採用していれば、それを引くためにサーチでデッキ圧縮をしていたか? ドローするためのカードをしっかり使ってきたのか? など、反省すべき項目を自身のプレイにのみ絞って見直すことができます。自分のプレイが正しかったか判断するときには、こうした裏付けをしていくことが重要です。
――たしかに3枚採用しているカードは構築上、最大限使うための努力をしていることになりますね。今回、大会の直前にはTwitterでひれひれ(∵)さん(関東のプレイヤーで「MASTERS 2021 THE AFTER」などでも優勝している実力者)と意見交換しているところを見かけたのですが、2人の間でデッキの調整なども行なわれたのでしょうか?
holy:調整というほどではないですが、ひれひれ(∵)さんから「「風単【忍者FFIV】」を使ってみたいのですが、どんな感じですか?」とお話しいただきまして、デッキについてお話しし、ひれひれ(∵)さんからも使用感についてお話をいただいたという流れでやり取りがありました。
ひれひれ(∵)さんは自分が試していないカードも取り上げていて、例えば【3-060R】《ツキノワ》を【11-045H】《エッジ》がいれば0コストでキャストできることを自分が知らず、それは発想になかったので新たな選択肢を知る機会になりました。最終的に採用には至りませんでしたが、こういったやり取りもデッキをブラッシュアップする要素だったと思います。
――【11-140S】《カダージュ》、【PR-110】《ライトニング》、【3-060R】《ツキノワ》など候補に挙がったカードについてもお話しいただきましたが、このほかで当落線上に残っていたカードはありましたか?
holy:デッキの方向性がガラッと変わりますが、雷属性の【15-095C】《忍者》と【15-049C】《ガルキマセラ》を使う構築は考えました。【17-103R】《ユウギリ》で【15-095C】《忍者》をサーチできるためクリスタルを獲得しやすく、それによってコストを軽減できる【15-049C】《ガルキマセラ》が【15-083L】《リディア》を手札に戻せて【14-042L】《雲神ビスマルク》をブレイクできるなど、相手のキーカードへの解答と自分の【11-045H】《エッジ》や【17-044R】《オニオンナイト》を守る手段になるのではないかと考えていました。
当日のギリギリまで悩んでいたのですが、雷属性のバックアップを増やしてしまうと【16-058R】《フィーナ》が使いにくくなること、そもそもクリスタルがないと【15-049C】《ガルキマセラ》のコストがかかりすぎること、なにより自分がカードを持っておらず友人に持ってきてもらうのがはばかられたこともあり、迷うぐらいなら見送ろうと決め今回の構築では採用していません。
――ここまでの話のなかで「風単」や「風氷」、「【モールズの夜会】」や【15-083L】《リディア》など、対面を意識したデッキやカードのお話も出てきましたが、京都大会ではどういったメタゲームを想定されていたのでしょうか?
holy:千葉大会・下関大会と「火土水【リディア】」が優勝しており、プレイヤーの意識が「火土水【リディア】」を対策することに向かい、対策されることを嫌うプレイヤーが増えることで、相対的に「火土水【リディア】」の使用率は低下するだろうと考えていました。
「風単【忍者FFIV】」は【11-045H】《エッジ》の手裏剣カウンターなど除去手段がダメージに寄っているため、「火土水【リディア】」のキーカードである【15-083L】《リディア》の対処が苦手です。
また、こちらの【11-045H】《エッジ》に対して【15-083L】《リディア》のアビリティから【15-014H】《ブリュンヒルデ》をキャストされることで大きくアドバンテージを取られてしまうため、テンポを取り返すのも苦手で、こちらからテンポを取るために攻めるプランに対しても、EXバーストで【15-014H】《ブリュンヒルデ》をめくってしまうリスクを抱えてしまいます。
もちろん絶対に勝てないということはありませんが、基本的には不利な相性関係にあるデッキと言えるでしょう。しかし上記の予想のもとメタゲームが進み「火土水【リディア】」が数を減らすとなれば、「風単【忍者FFIV】」は非常にポジションのいいデッキになるのではないかと考えました。
――【11-045H】《エッジ》を適切に対処してくる「火土水【リディア】」が減るだろうという予測をされたということですね。逆に今回メタゲームの中心にはどういったデッキが食い込んでくると予想されていましたか?
holy:「火土水【リディア】」が数を減らすことで活躍の幅を広げるだろうと考えたのが「風単」や「風氷」といったキャスト型のデッキです。これらのデッキに対しては序盤から【忍者】を展開してアグロを仕掛けるプランが有効です。相手のバックアップ展開に対しても【16-050H】《セオドア》でバックアップをブレイクすることで、キャスト数を稼ぎ【17-063R】《ルッソ》で切り返そうというプランを崩したり、連続キャストに割り込んで【17-044R】《オニオンナイト》から【3-056H】《ジタン》を出しキーカードを捨てさせるなど、ちょっとしたアクションで相手のテンポを一歩ずらしてゲーム運びを優位にすることができます。
もちろんこれ以外にもさまざまなデッキタイプとの対戦が想定されましたが、持ち前のプランの豊富さによってアグロからコントロールに至るまで対面に応じた戦い方ができるため、序盤から相手のデッキをよく観察し、相手の狙いを見極めて戦うことを意識していました。
1ゲームだけ、相手の【17-031L】《セラ》のアビリティをよく把握しないままアタックを許して負けてしまうというミスを犯しましたが、運よく「火土水【リディア】」とぶつかることもなく、おおむね想定どおりのゲームができたと思います。
――相手に応じて戦うとのことですが、具体的にはどういったプランを想定していたのでしょうか?
holy:まず基本となるのが【11-045H】《エッジ》を主軸に戦うプランです。初手から【11-045H】《エッジ》→【17-103R】《ユウギリ》→【11-060C】《マイナ》と展開し、アグロプランを仕掛けることになります。
【11-045H】《エッジ》を対処する手段が乏しいデッキに対してはこのプランで戦うことになりますが、【11-045H】《エッジ》はもともとのコストが軽くてフィールドに出しやすく、【11-060C】《マイナ》・【17-103R】《ユウギリ》のコストを軽減できれば十分に仕事は果たしているので、万が一対処されてもテンポを崩されることなくゲームを進めるのが可能です。
【11-045H】《エッジ》に対して有効な【15-014H】《ブリュンヒルデ》が採用されている「火土水【リディア】」や火属性系統のデッキに対しては【16-050H】《セオドア》でバックアップをブレイクしながら【カテゴリ(IV)】のパッケージで戦っていくことになります。
また、こちらが【11-045H】《エッジ》を出してくる前提でプレイングをずらそうとしてくる相手に対しては、手札に【11-045H】《エッジ》を温存しつつあえて展開するフォワードのラインをずらし、しびれを切らしての除去を使わせてから【11-045H】《エッジ》を展開するといったプランを取る場合もあります。
フィニッシュ手段も【14-042L】《雲神ビスマルク》によるコントロールだけでなく、【11-094C】《ザンゲツ》で相手のブロッカーをダルにして一気に攻め切ることもできるので、終始盤面を見極めて適切な対応ルートを追っていくことが重要です。
――対戦相手に応じて適切なプランを選択することがデッキを使いこなすコツになると。
holy:そうですね。相手が何を狙ってゲームを進めてくるかを見極める必要があるので、特に序盤の1~2ターンは相手の動きをよく観察する必要があります。
◆オリジナルデッキへのこだわりと、細分化されたイメージトレーニングの重要性
――「第四期名人位決定戦」、「MASTERS 22-23」京都大会と【忍者】デッキで参加し好成績を残されていますが、オリジナルのデッキを使うことへの強いこだわりを感じますね。
holy:僕は大会に出るにあたって「自分だけが使うデッキで参加する」ということを必ず意識しています。というのも、僕は同じデッキどうしのミラーマッチが苦手というか、嫌いなんです(笑)。
ミラーマッチにおける勝敗の分水嶺は、構築やプレイングでいかにプレイヤーがそのデッキのポテンシャルを引き出せるかだと考えているのですが、トーナメントを勝ち進んでいくほどこういった実力差はなくなっていき、突き詰めた先には運が絡んでくると考えています。こうした運の部分で、自分は運がいいほうのプレイヤーではないと考えているので、勝敗の要素を運に預けなければならないデッキを選択したくないというのが、僕がオリジナルデッキにこだわる理由です。
――ミラーマッチでは、たとえばそれを意識したカスタムで差をつけようというアプローチ方法もあるかと思いますが、そういったところもあまり好まないということでしょうか?
holy:基本的に自分が使うデッキのことは自分が一番熟知していると思うのですが、ミラーマッチではすなわち相手のデッキも熟知していることになります。当然自分が歩いてきた道は相手が歩いてきた道なので、そうしたアプローチも相手には知られているでしょう。
『FFTCG』では相手の狙いがわかるということは大きなアドバンテージになります。それであれば、自分は相手のデッキを知っているけど相手は自分のデッキを知らない状況で相手の頭の中にない動きをして、「あ、そんなことされるんだ!」と思わせられるのはデッキ選択における大きなメリットだと考えています。見たままの盤面だけでなく、相手からは見えないアクションが取れるというのが『FFTCG』では大事な要素だと思っています。
あと、やっぱり自分だけのデッキで勝ったほうがカッコいいという気持ちが大きいですね(笑)。
――それはすごく共感できます。僕ももちろんですが、それを目標にしているプレイヤーも多いと思います。オリジナルデッキを使うにあたって自分は相手のデッキを知っているけど、相手は自分のデッキを知らないという状況がメリットになるとのことですが、そのぶん多くのデッキを知る必要があると思います。これについてはどういったアプローチをされているのでしょうか?
holy:僕のプレイ環境の話になるんですが、普段からカードに触る時間があまりないので、大会を除けば実際に『FFTCG』をプレイする機会は1人の友人とプレイするときだけなんです。それも、1つの大会に参加するのに1日時間が取れたらいいぐらいの感覚で。なので、調整については基本的にイメージトレーニングで自分の脳内で行なっています。相手がこう動いたら自分はこう動いて、それに対してどう動いてくるだろうというのをひたすら繰り返しています。
――僕は1人回しや脳内でのイメージトレーニングがどうしても苦手なのですが、なにかコツなどあるのでしょうか?
holy:イメージトレーニングをするときよく考えるのが、初手のマリガン基準についてです。バックアップが2枚あるかとか、キーカードを引けているかとかですね。これに対して、デッキごとにゲームをスタートできるだけの基準を満たす初手の最高到達点と最低到達点を決めて考えるようにしています。最低到達点は「これだったらギリギリ始めざるをえないな」というラインですね。
今回のデッキで言えば、たとえば初手で【11-045H】《エッジ》にアクセスできるバックアップが1枚だったとして、それ以外の4枚はバックアップでも【11-045H】《エッジ》でもないカードということになります。そうなると残りの手札は必然的に候補が絞られてきます。
デッキを組む段階からコストに回すカードの優先順位がある程度決まっているので、その候補の中からどういったカードを引いているかをパターンで考えます。さらにその局面で理想のカードを引けた場合と一番悪い引きをした場合を考え、それに対して相手はどう動いてきたのかというのをぐるぐると自分の脳内でパターン化して考えています。
脳内とはいえ相手のカードは決まっているので、こう動かれてもこのカードがあればまだ戦えるなとか、無理やりこの動きをしてみたらどうだろうなど考えて、最終的に手詰まりだなというところまでは考えるようにしています。
相手の動きのパターンを細分化することで、どんなカードが採用されているのか、どんなプランを取りえるのかなど、相手のデッキへの理解を深めることができます。理解が深ければ深いほどマッチアップしたときにどういったプランを取るべきなのかすぐに判断できるので、イメージトレーニングを行なうことは非常に重要です。
――イメージを細分化して、自分が負けるところまで進めていくということですね。1人回しの解像度が非常に高いなという印象を受けましたが、こうした取り組みが「風単【忍者FFIV】」のポテンシャルを引き出すholyさんの強さの源なのだと感じました。では最後に今大会で出場を決めた「MASTERS 22-23 FINAL」に向けコメントなどいただければと思います。
holy:そうですね。これまでも決勝トーナメントまで進めたことは何回もあるのですが、最終的に優勝をできたことがないので、チャンスがあればそこまで行ってみたいなと思います。もちろんオリジナルデッキで。
――ありがとうございました。
◆おわりに
今回は「MASTERS 22-23」京都大会をオリジナルの「風単【忍者FFIV】」で優勝されたholyさんにインタビューを行ないました。
オリジナルデッキで大会に挑むという姿勢もさることながら、脳内でこれだけ解像度が高い調整を行なっているということには一プレイヤーとして驚嘆させられました。
いかなる環境であっても質の高いトレーニングを積むことができることが、holyさんの実力を裏付けているのでしょう。今後も「MASTERS 22-23」のインタビューを通じて強豪プレイヤーの取り組みについて触れ、僕もぜひ身につけていきたいです。
次回の記事では10月23日(日)に開催された仙台大会のインタビューをお届けしたいと思います。関東随一のデッキビルダーが新たに作った「火風」について迫っていきますので、楽しみにお待ちください。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう。