【FFTCG】前環境を制した「風単」の勢い、衰えず! ~「日本選手権2023 Spring」神戸大会優勝者インタビュー~

『FINAL FANTASY TRADING CARD GAME』の公式記事連載。今週は「日本選手権2023 Spring」で優勝したholyさんのインタビューをお届けします。

◆はじめに
みなさん、こんにちは!
『FFTCG』公式記事ライターのたるほです。
今週も前回に引き続き、現在開催中の「日本選手権 2023 Spring」の優勝者インタビューをお届けします。

今回お届けするのは「悪夢より来たる」環境で初のスタンダードでの開催となった神戸大会です。当日は45名の参加者のうち10名が「火雷【XIII】」を選択するアグロデッキが人気の環境になりましたが、新カードを使用したチャレンジングなデッキも多く、ベスト8には多種多様なデッキが残ることとなりました。

そんななかで優勝したのは関西屈指の強豪プレイヤー・holyさんのキャスト型「風単」でした。前環境でも猛威を振るっていた「風単」の勢いは新環境でもとどまることがないようです。

今回はみごと優勝を果たしたholyさんにインタビューを行ない、いまだ進化の止まらない「風単」が「悪夢より来たる」でどのようにアップデートされたのかについて、お話をうかがいました。

 

◆前環境王者「風単」、さらに最強の先へ
――「日本選手権 2023 Spring」神戸大会、優勝おめでとうございます。

holy:ありがとうございます。

――今回holyさんが使用されたデッキはキャスト軸の「風単」でした。「MASTERS 22-23 FINAL」でも優勝した前環境のトップデッキですが、その強さは現環境でも健在という結果となりました。まずは今回、holyさんが「風単」を使用した理由からうかがいたいと思います。

holy:今回僕が「日本選手権 2023 Spring」神戸大会で「風単」を使用した理由は大きく2つあります。

まず1つが、新環境で「風単」を超えるデッキを見つけられなかったということが挙げられます。
前環境の「MASTERS 22-23 FINAL」では、はら(※けすうゆらは)さんが【18-050L】《ユフィ》を採用した「風単」を使って優勝しており、それを見てかなり強いなという印象を持っていました。

私は「風雷【忍者】」で参加し、方向性は違うものの自分でも【18-050L】《ユフィ》を採用しておりこのカードを踏まえた「風単」のポテンシャルの高さは頭一つ抜けているものだと感じていました。

そんななかで「悪夢より来たる」が発売され、「この『風単』を打倒できるか?」という視点でカードを見ていたのですが、仮に6回戦すべて「風単」とマッチングしたとして、そこで勝ち切れるデッキやカードは自分では見つけられないと感じたのが正直な感想でした。

【ジョブ(召喚士)】のギミックにワンチャンスあるかなとも思ったりはしたのですが、発売以降間もない神戸大会では研究しきる時間もないですし、もうひとつ注目していたデジョン絡みのデッキは実際に使ってみないとわからないことも多く、脳内でデッキを作りイメージトレーニングを行なう自分の調整方法の中では現段階でこれらのデッキがどれくらい戦えるのか想定しきる時間をとることが難しかったです。

そこで、はらさんが使用されていたデッキをベースにした「風単」を使おうと考えたのが1つ目の理由です。

●デッキリスト:「風単」(「日本選手権 2023 Spring」神戸大会優勝 フォーマット:スタンダード)

カード番号 カード名 枚数
フォワード(22枚)
【14-042L】 《雲神ビスマルク》 1
【18-050L】 《ユフィ》 3
【1-086C】 《ユフィ》 2
【17-063R】 《ルッソ》 2
【16-048H】 《ジタン》 3
【14-057H】 《ローザ》 3
【16-058R】 《フィーナ》 3
【16-135S】 《ルールー》 3
【19-045H】 《ソフィ》 1
【12-037L】 《アーシェ》 1
バックアップ(12枚)
【16-055C】 《チョコボ・サム》 3
【4-064L】 《デブチョコボ》 1
【12-048R】 《チョコラッテ》 1
【15-052C】 《チョコボ》 1
【8-058R】 《ノルシュターレン》 2
【12-038H】 《アルテア》 2
【13-043C】 《スティルツキン》 1
【11-060C】 《マイナ》 1
召喚獣(12枚)
【2-049H】 《アスラ》 2
【12-039C】 《アレキサンダー》 2
【17-053R】 《チョコボ》 3
【10-055H】 《チョコボ》 3
【18-045C】 《ドリュアス》 2
モンスター(4枚)
【19-038R】 《エフレイエ》 1
【16-043H】 《アトモス》 2
【14-049H】 《テュポーン》 1

そして、もう1つの理由が「風単」というデッキが非常に自分に合ったデッキだと感じていたためです。

現在の『FFTCG』は相手に対応するよりも、自分のベストムーブを相手にぶつけたほうが勝ちにつながりやすいゲーム性になりつつあると考えているのですが、「風単」というデッキは自分のターンにやりたいことを押し付けたうえで相手ターンにも干渉できるデッキだと考えています。これを可能にしているのが先ほども挙げた【18-050L】《ユフィ》の存在です。

『FFTCG』において相手ターンに複数のフォワードを除去できるカードはあまりないなか、【18-050L】《ユフィ》のスペシャルアビリティ「生者必滅」はそれを可能にしてくれます。

僕はデッキを選択するときに「自分のやりたいことをやれるが、相手にも好き勝手されるタイプのデッキは避ける」ということを最低条件にしているので、これを満たせる「風単」は非常に僕好みのデッキだったと思います。

――前環境で活躍したデッキという意味では「水単」や「火雷【XIII】」というデッキも引き続き強力かと思いますが、これらのデッキは候補には挙がらなかったのでしょうか?

holy:「火雷【XIII】」は言ってしまうと展開が固定されていて、プレイングがあまり介在しないデッキであり、自分のデッキ選択のスタンスに合わないデッキだったため使用することは最初から考えていませんでした。

また、自分が「風単」を使い対面することを想定しても、【18-050L】《ユフィ》という明確な回答があるため十分に対処することが可能です。

もちろんデッキの再現性が高く、少しでもこちらの対応が遅れると負けてしまうという強さのあるデッキではありますが、こちらのミスで負けることはなく、また十分認知されたことで対策も進んでしまったので現環境で勝ち切ることは難しいと思っています。

あくまでプレイではなく、環境での立ち位置で勝つデッキだと考えているので、自分のスタイルとも現在の環境ともマッチしていなかったのかなと思っています。

「水単」に関しては引き分けによる両者敗北が起こってしまう可能性があると思っていて、特に「水単」どうしのミラーマッチではデッキ切れによる勝利を視野に入れたプレイをするため試合が長引き、より時間切れのリスクが高くなります。

こうした状況を解決するためのプレイも自分の中で解答が用意できず、結果的にプレイの介在する要素が少ないと判断したため、使用するという判断には至りませんでした。

この2つに対して「風単」はキャストの順番やタイミング、それを踏まえたうえで相手ターンにどこまで動ける選択肢を残すのかという駆け引きが多く、ミラーマッチであっても自分の能力で戦える自信があったことも今回使用に至った理由です。

――環境が始まって間もなく前環境で活躍したデッキへの明確なアンサーとなるデッキが登場しないなか、holyさんの条件を満たせるのが「風単」だったということですね。そんな「風単」ですが、「悪夢より来たる」の新カードから採用候補となるカードは種類としてはそれほど多くないという印象もあります。実際holyさんのデッキでも新たに採用されたカードは【19-045H】《ソフィ》と【19-038R】《エフレイエ》の2種類だけですが、これらのカードは「風単」にどういった影響を与えたのでしょうか?

holy: 【19-045H】《ソフィ》についてですが、まず僕は『FFTCG』における最強のアビリティは「ヘイスト」だと考えています。


自分のターンのオートアビリティによる除去が強いゲーム性なので、ほとんどのフォワードは出した次のターンまで安定してフィールドに残るのが難しいなか、「ヘイスト」はフィールドに出たターンに役割を果たせる非常に強力なアビリティといえます。

実際このデッキにも【18-050L】《ユフィ》と【16-048H】《ジタン》を採用していますが、「風単」というデッキの強さの根幹もキャストギミックというよりはこれらの「ヘイスト」持ちフォワードによって支えられていると考えています

先ほど「水単」を使わなかった理由についていくつかお話しましたが、「ヘイスト」がないというのもその理由の1つです。そんななかで新たな「ヘイスト」持ちフォワードとして【19-045H】《ソフィ》が登場したことは「風単」にとって大きな追い風でした。

また「風単」がいままで持っていなかったモンスター除去の役割を担えるようになったことも【19-045H】《ソフィ》を評価しているポイントです。

「風単」は元々なんでもできるデッキではあったのですが、以前までの構築では唯一モンスターへ対応する手段が不足していました。【19-045H】《ソフィ》が登場したことでそれも可能になり、いよいよできないことがないデッキになったと感じました。

もちろんバックアップをアクティブにする効果は風属性を代表する能力で「風単」にかみ合わないわけもなく、フォワードが並ぶ「風単」というデッキの性質上、すべての効果を使うことも難しくありません。今回は1枚のみの採用でしたが、これからより研究が進むなかで枚数が増えていくカードじゃないかなと考えています。

――「悪夢より来たる」では【19-035R】《アレキサンダー》も追加され、モンスターの対処は相当簡単になりましたね。逆に【19-038R】《エフレイエ》はモンスター側のカードですが、このカードはいかがでしたか?


holy:正直このカードはかなりの問題児です。個人的には「なぜこんなカードが生み出されてしまったんだ……」とすら思っています(笑)。

どう考えても強いことは誰の目にも明らかで、いわゆる実質0CPのカードなのでキャストギミックと相性がよいことはもちろん、特にシナジーがあるのが【12-048R】《チョコラッテ》とのセットアップで、この2枚をセットで使うことで、ほぼ毎ターン【12-048R】《チョコラッテ》による追加ドローができるようになりました

コンボデッキで1ターンに3枚ドローできるのははっきり言って強力すぎます。


そのうえ「風単」には【13-043C】《スティルツキン》があるのでこのカードをサーチすることも可能です。

一般アイコンを持たない都合上、何枚も採用したくはないカードなのですが安定したサーチ手段により確実なキャストが可能で、デッキのスロットを圧迫せずに最大限活躍させられます。

またこれまで採用されていた【13-037C】《オチュー》などと違い、オートアビリティではなくアクションアビリティでバックアップをアクティブにできる点も優秀です。というのも【16-043H】《アトモス》や【14-057H】《ローザ》を使ううえで、オートアビリティによってバックアップをアクティブにするカードは過剰にバックアップをアクティブにしてしまい、結果的に損をすることがあります。


ですが、アクションアビリティにより任意のタイミングでバックアップをアクティブにできる【19-038R】《エフレイエ》はそうした無駄を生むことなく運用できます。

アクションアビリティゆえのスタックの積みあいに強いことも特長で、【12-038H】《アルテア》を使おうとダルにした瞬間に戻したいフォワードに除去を合わされていたシーンでも、【19-038R】《エフレイエ》で【12-038H】《アルテア》をさらにアクティブにできるので、隙なく【12-038H】《アルテア》を構えることが可能です。たった1枚でありながら「風単」の対応力を大いに高めてくれたカードだと思います。

――新カード以外の要素でも構築で個性を感じる点があります。例えば「MASTERS 22-23 FINAL」ではらさんが使われた構築では【14-057H】《ローザ》が2枚でしたが、holyさんの構築では3枚最大限採用されています。

holy:「風単」が環境で意識された場合にどこが対策されるかということを想像したとき、おそらく【14-057H】《ローザ》の除去を優先して考えるだろうと予想しました。

「風単」は召喚獣であれば【16-135S】《ルールー》で、コスト2以下のキャラクターであれば【2-049H】《アスラ》でブレイクゾーンから回収できますが、【14-057H】《ローザ》に関しては回収手段がありません。

また初手に【14-057H】《ローザ》があることを考えて試合展開をイメージしていくと、序盤にバックアップを展開したあとの手札に【14-057H】《ローザ》を残しておけるかな? と思ったときに、おそらくほかにも優先すべきカードがあるのでコストに回すなと考えました。そこで1枚をコストにするとして、2枚目をなんとか用意してもそれを除去されると終わってしまうと考えると2枚採用では足りないと感じました。

――【14-042L】《雲神ビスマルク》は人によって当落が分かれるカードになったという印象です。強力なカードであることは疑いようがないですが、はらさんのデッキには採用されていなかったカードです。このカードを採用した理由はどういった点にあったのでしょう。

holy:そうですね。やはり強力なのは間違いないので採用したカードですが、たしかにある程度お膳立てが必要なので、以前のように3枚採用するということはなくなったのかなと思います。


この「風単」自体はフォワードをアクティブにする手段が少ないので、【14-042L】《雲神ビスマルク》の除去性能という点ではポテンシャルを発揮しきれる構成というわけでもありません。ただデッキにあるかないかでいえば、あるほうが当然強いカードなので採用しないことはないな、と考えています。

――先ほどの【14-057H】《ローザ》の例でいえば、コストにしたり除去されてしまう可能性を考慮すると1枚採用では心もとないのではという気もします。

holy:そういう観点でいうと明確に使用するデッキを見定めているので、そのマッチアップではコストにしないと決めていました。

――具体的に何を仮想敵としていたのでしょうか?

holy:1つは「水単」とのコントロール対決です。実際に有効かはさておき、水属性のデッキに対して【14-042L】《雲神ビスマルク》が強いだろうとは考えていました。

もう1つが土属性の【15-082H】《ヘカトンケイル》を採用したデッキに対して使うことを想定していました。

「風単」はパワーラインが9000のフォワードが【18-050L】《ユフィ》しかいないため【15-082H】《ヘカトンケイル》1枚でフィールドが半壊してしまいます。そこで全体除去が通りにくくなるようにもう1枚パワー9000のフォワードを採用したいと考え【14-042L】《雲神ビスマルク》を採用しました。

――「MASTERS 22-23 FINAL」ではらさんにインタビューを行なったとき、「風単」も来るところまで来たなという印象を受けましたが、まださらに先があるとは想像していなかったですね。

holy:「風単」というデッキは強さもさることながら、環境に存在すること自体のプレッシャーも大きいんじゃないかなと考えています。それが顕著に現れているのが【16-048H】《ジタン》というカードの存在です。


対戦相手のデッキからカードを奪えるということは、仮に奪えたカードが有効札でなくても単純に2CP分のアドバンテージを奪えるため単純なコストパフォーマンスが高く、どんな除去をされても損することはないですし、有効札を奪えばそれ以上の活躍をします。

また相手のカードを奪いながら使うという性質は構築のリスクを減らしつつ、環境的にもっともパフォーマンスが高いカードを使えるということです。

例えば神戸大会では【19-128L】《ウォーリアオブライト》を使用しているプレイヤーも多くいましたが、ほかの人がこのカードを使うためにリスクを抱えながらデッキを選択するなか、「風単」はなんの労力もなく相手のデッキからこのカードを盗んで使うことができるのです。


自身のデッキのカードパワーを高めなくても、環境に存在するパワーカードを使えてしまうことも、【16-048H】《ジタン》が強力である理由です。


◆「風単」を使うのか、倒すのか
――神戸大会は「悪夢より来たる」環境で初のスタンダードでの開催となりましたが、大会を戦うなかで印象的だったことなどはありましたか?

holy:今回参加して一番驚いたのは「風単」を使っているのが自分1人だったということです。「MASTERS 22-23 FINAL」の結果を踏まえてもっとも意識されているデッキだと思っていたので使用者はもう少しいると思っていたのですが、使う側より倒す側に回ろうと考える人が多かったのかなと感じました。

――今回ご自身では「風単」を超えるデッキを見出せなかったとのことでしたが、大会に参加してみて初期環境の印象を払拭させるデッキとの出会いなどはありましたか?

holy:今回対戦したデッキのなかではやはり「風単」を超えてくるポテンシャルのデッキはまだ出てきていないと感じたのが正直なところです。

もちろん一試合単位で見たとき勝利するという観点であれば勝ったり負けたりということはあるのですが、トーナメントという場において安定した勝率が求められるとなるとアドバンテージを得る量が多く、またどんなカードを引いてもシナジーを生みやすい「風単」のポテンシャルは頭一つ抜けたものなのかなと思います。

――スタンダードにおける「風単」の躍進は止まることはなさそうですね。「悪夢より来たる」環境では5月に「Standard Championship 2023」も控えていますが、今シーズンの今後の目標などがあれば教えてください。

holy:「Standard Championship 2023」は僕も参加を予定していますが、これからは「風単」を使う側から倒す側に回り、打倒「風単」を目指してデッキを模索していきたいと思います。

――ありがとうございました。

◆おわりに
今回は「日本選手権 2023 Spring」神戸大会を「風単」でみごと優勝されたholyさんにインタビューを行ない、前環境を制した「風単」が「悪夢より来たる」でどのような進化を遂げたのかお話をうかがいました。

一度最強の座に就いた「風単」ですが、新たな環境でさらなる力を手に入れ今シーズンも暴れまわることになりそうです。

インタビューのなかでも取り上げましたが、「悪夢より来たる」環境では5月に「Standard Championship 2023」が開催されます。

優勝したholyさん自身、今後は「風単」の打倒を目標にされるとのことですが、「風単」を取り巻くスタンダードのメタゲームの構図が今後どのように変わっていくのかにも注目していきたいところです。

次回は2度目のL3構築での開催となる「日本選手権 2023 Spring」岐阜大会の優勝者インタビューをお届けしたいと思いますのでお楽しみに!

それでは、また次回の記事でお会いしましょう!