『FINAL FANTASY TRADING CARD GAME』の公式記事連載。今週は、数々の優勝実績を持つ強豪プレイヤー、閣下さんが『FF-TCG』のブースタードラフトについて語ります。
◆はじめに
皆さん、こんにちは。『FF-TCG』プレイヤーの閣下です。
先日、名古屋で開催された「JAPAN CUP NAGOYA」で優勝したため、カードゲーマー公式Webにインタビューが掲載されました。
そのなかで「Opus VIII」環境のドラフトについて、いろいろとお話しさせていただきましたが、その際に「次はもう少し踏み込んだ実践的な話をしてほしい」と依頼されました。
そこで、ここでは先週さいたまで開催された「CRYSTAL CUP EARTH」2日目での私のブースタードラフトのピックについて書いていこうと思います。
次にブースタードラフトが採用される大型大会は福岡での「CRYSTAL CUP ICE」で、そのときには「Opus IX」環境になっていますが、使うパックにかかわらず通用するブースタードラフトの考え方やテクニックを知りたいという方の参考になれば幸いです。
なお、先にお話ししておきますが、私はこのブースタードラフトで0-3しています。
なので前回のインタビューを読んでいただいたうえで「理論と実践」、そして「実戦における失敗例」としてお役立ていただければと思います。
「ブースタードラフトってなに?」という方は、読む前にこちらをどうぞ。
それでは始めていきましょう。
◆ブースタードラフトにおけるたった1つの方針と「Opus VIII」の特徴
まず、ブースタードラフトの基本的な方針について説明します。私がピックの際に意識しているのは以下の1点だけです。
●2属性以下でデッキを構築すること
「JAPAN CUP NAGOYA」より、ブースタードラフトで使用するパックの数が4パックから5パックへと変更されました。
これまでは4パック=48枚のカードから40枚以上のデッキを作っていたため、ピックしたカードはほぼ全部使わなくてはなりませんでした。
単純計算では1パック12枚のうち、10枚はデッキに入れなくてはならなかったわけです。
そのためカードが足りず、メイン2属性+タッチ1属性の3属性デッキになることも多かったのですが、現在のルールではほぼ2属性、うまくいけば単属性のデッキを作れることも珍しくありません。
「別にこれまでも3属性で組めたんだから、タッチ1属性くらいまでは許容範囲なのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、私としてはなるべく2属性以内でまとめることを推奨します。
理由として、ブースタードラフトなどのリミテッド戦ではダメージ6点で敗北となるため、基本的にゲームがすばやく展開されます。
属性が増えるほど、バックアップを整える都合上どうしても序盤にもたつくことが多いため、後攻だとあっさり押し切られることも多いです。
3属性でもデッキが組めないわけではありませんが、周囲のプレイヤーが2属性で攻めてくる以上、こちらも同等のスピードで立ち向かいたいというわけです。
また「Opus VIII」の特徴として、特定の属性のバックアップやキャラクターの数を参照する召喚獣があり、それらを強力に運用するために属性を絞りたいという事情もあります。
ブースタードラフトのテクニックというと「自分のパックから出たカードをおぼえておいて、1周回って返ってきたカードからほかのプレイヤーの動向を推察する」とか「両隣のプレイヤーと協調できるようシグナルを送る」といったものを想像される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、基本的にはこの「デッキが最終的に2つ以下の属性になるようにする」という点を守っていれば自然と両隣のプレイヤーとは協調できますし、デッキがズタズタになってしまうなんてことはめったに起こりません(くどいですが、今回は0-3でした)。
続いて、これは「Opus VIII」環境で私が決めていたことですが、
●風属性はなるべくピックしない
というものがあります。
「Opus VIII」の風属性はレアリティCのフォワードがサイズ、能力ともに優秀であり、一見すると強そうな属性に思えます。
しかし、レアリティCであるためパックから出やすく多くのプレイヤーが「とりあえず」でちょっと取ってしまう、いわば「つまみ食いされやすい」属性なのです。
これは逆に5パック制になってピックに余裕ができたゆえに生まれた弱点といえるかもしれません。
また、バックアップを見ても2種類ある【ジョブ(一般兵)】のうち【8-052C】《シーフ》が4コスト、2コストの【8-047C】《ウァルトリール》は複数出せないという弱点があります。【8-057C】《忍者》はスペックこそ及第点ですが、展開の早いブースタードラフトではバックアップをブレイクするアビリティを使うことはほぼありません。
前回のインタビューでも「ただカードを出すだけになりやすい」とお話ししましたが、レアリティHくらいまでを見ても単体でゲームを決めうるカードがありません。
相手への干渉手段としても【8-051C】《ガルーダ》は遅い、【8-056R】《デスゲイズ [IX]》と【8-066C】《輪廻王カオス》はクセが強いなど、全体的に見ると不安定な属性だと判断しました。
逆に、強いのは火属性です。
こちらについては前回のインタビューにまとまっているので、ここでは割愛します。
◆練習時のピックを振り返る
ここまでブースタードラフトにおける指針と「Opus VIII」環境の特徴についてお話ししました。
次に、練習時のピックから実際にどういう過程でカードを取っていったのかを振り返ってみたいと思います。
写真の上段から1パック目、2パック目、3パック目となり、右からピックした順に並べています。ちょっと写真が粗いですがご容赦ください。
1-1(1パック目の1手目。以下すべて同様に書いています)では【8-023R】《アークエンジェルGK》をピックしました。
タイミングしだいでは相手の攻撃をまるまる1ターン飛ばせるため、攻守の逆転を狙えるカードです。
偶数コストなのでバックアップ2枚からも出しやすく、EXバーストも持っていてパワーも申し分ありません。
先ほど少し触れましたが、以前(4パック制)のドラフトではピックできるカードの総枚数が少なかったため、自分の開封したパックから有用なカードを2枚取る前提で考える必要がありました。
たとえ【8-023R】《アークエンジェルGK》が強くても「1周したあとに氷属性のカードが取れなさそうなのでやめておこう」という判断もありえたわけです。
しかし今のルールではピックに余裕があるため、1周後のことはあまり考えず、素直に一番強いカードをピックするのがいいでしょう。
1-2は【8-079H】《ノクティス》。
これはやや決めうち気味の判断ですが『FFXV』に寄せる構築は、なかなか強力です。
そのなかでキーとなるのがこの【8-079H】《ノクティス》で、これ単体ではそれほど強力なカードではありませんが、【8-072R】《イグニス》と【8-074H】《グラディオラス》は【8-079H】《ノクティス》がいることで評価が大きく変わります。
逆に【8-072R】《イグニス》、【8-074H】《グラディオラス》を取っても【8-079H】《ノクティス》がいなければ使いづらいカードになります。
実際のゲームではよりパワーの高い【8-072R】《イグニス》、【8-074H】《グラディオラス》のほうが活躍するかもしれませんが、ピックの段階では【8-079H】《ノクティス》を先にピックしておくことが大事になります。
8人で行なうブースタードラフトでは合計40パックを開封することになるため、1ボックス(36パック)を開けたよりも多くのカードが出ることになります。
レアリティRやHのカードを絡めたコンボ、シナジーも現実的に狙えるので、こういった機会を見逃さないようにしましょう。
その後は氷、土属性のカードを集めていきます。
2パック目の後半では【8-082R】《プロンプト》を複数取れていますね。
これも【8-079H】《ノクティス》とシナジーのあるカードなので、シナジーの起点となるカードの重要性が伝わるかと思います。
そのまま氷、土のカードをピックしていきましたが4-1では特に欲しいカードがなく【8-129R】《ライオン》をカット(ほかのプレイヤーに使われたくないカードをピックすること)しました。
ブースタードラフトは基本的に協調が大事と考えているので、私はカットをすることはあまりありません。
3回戦のブースタードラフトでは特定のプレイヤーと対戦する確率は3/7しかなく、ゲーム中にそのカードをプレイされる可能性となるとさらに低くなります。
それならば自分のデッキをより確実に強くするほうがリターンは大きいでしょう。
今回のパターンでは、すでにそれなりに氷、土のカードが取れていることと、ほかに本当に取りたいカードがなかったためカットという判断をしました。
こうやって実際にピックしたカードを並べてみると「2属性で組む」のは難しくないことが伝わるのではないでしょうか。
ピック中はいろいろな誘惑にかられますが、やはりこの「2属性で組む」というのが一番明確な方針になるのではないかと思います。
もう1つ練習時のピックを見てみましょう。
こちらも上からパック順、右からピック順となります。
1パック目は1-1の【8-021R】《レイン》をはじめ、火のカードと流れてきた水のカードを中心にピックを進めていきました。
この時点では「悪くはないがちょっと華がないかな」くらいの評価です。残りのパックで強力なレアリティLのカードが出るなど、何か変化に期待しつつピックを続けます。
2パック目は2-1で【8-004R】《イロハ》、2-2が【8-010H】《サラマンダー》、2-3では【8-138S】《ヒエン》と強力なカードをピックすることできました。
そして転機となったのが2-4の【8-035H】《スコール》です。
それまで氷のカードを1枚もピックしていませんでしたが火のカードを中心にピックしていたため、ここから氷属性をピックしても十分枚数がたりると考えて方向転換しました。
これも属性を絞ってピックするメリットの1つで、ある属性を中心にピックをしていれば、2属性目を変えるチャンスが生まれやすくなります。
これまで「デッキは2属性」とお話ししてきましたが、1パック目あたりはなるべく1つの属性に寄せたピックを行ない、2属性目については判断を保留できるようにしておきましょう。
もちろん、強力なカードを2つの属性でそれぞれピックできたときなどはこの限りではありません。
また、2属性目を変えるタイミングは遅くなりすぎてはいけません。
今回は2-4なので間に合いましたが、個人的な感覚としては2パック目のカードが1周するあたりまでが方針転換の猶予期間だと思います。
◆練習ではうまくできていたが…実戦レポート
練習では毎回一定以上の質のデッキを構築することができ、負け越すこともなかったため自信を持って「CRYSTAL CUP EARTH」に臨むことができました。
初日の構築戦を4勝2敗で終え、ドラフトラウンドに進みます。
1-1は【8-032R】《シヴァ》。
氷属性は火属性についで強力な属性で、このカードもゲームを決めうる力を持っています。
しかし周囲のプレイヤーも環境を的確に把握しているようで、そこからなかなか甘いカードが流れてきません。
『FFXV』軸の中心となる【8-079H】《ノクティス》、『FFL』軸の中心となる【8-076H】《グレイブ》をそれぞれピックしますが、【8-072R】《イグニス》が1周して戻ってこなかったため、同じような狙いをしているプレイヤーがいるようです。
使う属性を決めきれないまま、何かとっかかりを求めてカードを集めていきます。
1パック目の終了時は上記のカードと【8-100R】《ジンナイ》、ほかに水属性のカードがまばらにあり、氷土雷水の4属性を天秤にかける状態に。
氷属性をメインに、残る3属性から1属性を選んでデッキをまとめることを2パック目以降の指針とします。
しかし、2パック目を開けるとそこには【8-006L】《クラウド》。
隙あらば火属性には参入したいと考えていましたが、1パック目でその目はないことがわかっていたので泣く泣く流します。
ここで【8-006L】《クラウド》をピックして無理やり参入してしまうと周囲のプレイヤーの足を引っ張ることになり、自分の周りだけデッキが弱くなってしまいます。
ここでは【8-037R】《セリス》を取り、火のカードは取らないことをアピールします。続いて【8-118H】《スタイナー》を取って氷水に的を定めました。
これが誤算で、そのあと立て続けに火属性のカードが流れてきます。
あとでわかったことですが、このとき卓の状況は
水氷(私)←土風←土風←氷雷土
↓ ↑
火土→火氷→水雷→風雷
というもので自分の左隣(1パック目では私がカードを回していた方)のプレイヤーは火属性をやっていなかったのです。
結果論ですが【8-006L】《クラウド》から火に参入していれば、実に5人ぶんの火属性のカードを2パック目、4パック目で集められた可能性があり、立派に卓内で3人目の火属性になれた可能性があります。
1パック目では自分の上(右隣)にいた2人のプレイヤーが火をやっていたため自分に火のカードが流れてこなかったのですが、自分のなかにも「火属性は人気」というバイアスがあり「これはみんな火をやっている」と思い込んでしまいました。
なお「Opus VIII」の火属性はカードの質が非常に高いため、8人中3人がやっていてもデッキが非力になってしまうことはありません。
3人で分けあった火属性 ≧ 2人で分けあったそれ以外の属性
ということも十分ありえます
最終的にできあがったデッキがこちらです。
全体的にフォワードのパワーが低く、除去も少ないためデッキ自体はそれ程強くありません。
かわりに【8-032R】《シヴァ》や【8-044C】《ランツィーラー型》といった干渉手段は豊富にあるので先手を取ってダメージレースを制しての勝利を目指したいところです。
……もちろん、そううまくはいきませんでした。
1回戦では相手が先手1ターン目に【8-115L】《ジタン》を出してきてこれに対処ができず、カードをたくさん引かれてアドバンテージ差がついてしまい敗北。
2回戦では先手を取れたもののEXバーストで除去されてしまい、それが最後まで響いて最後の1ダメージが奪えず敗北。
デッキの勝ち筋が細いのでちょっとした要素で逆転されてしまいます。
3回戦は相手が後攻2ターン目に【8-107C】《竜騎士》を3体並べるものすごい展開でなすすべもなく敗北。
1、3回戦目の展開を見るとわかりますが環境は非常にアグレッシブで、ちょっと立ち止まるとすぐに相手のフォワードが殺到してきます。
しっかりと自分で攻める軸を定めたピック、構築が必要だとあらためて痛感しました。
◆終わりに
初の「世界選手権2019」日本代表を決める大会でしたが、ご覧いただいたようにブースタードラフトで大失速し、決勝ラウンドに残ることはできませんでした。
「Opus VIII」環境の特徴自体はつかめていたと思っていますが、逆に頭でっかちになっていた側面があり、もっと根本的なブースタードラフトの嗅覚が鈍っていたと反省しています。
しかし、練習で気づいたことも多く、今回は負けはしたものの自分のなかにノウハウを蓄積できたと思います。
次の「CRYSTAL CUP」では今回の経験を活かして、次こそ日本代表の座を射止めたいと思います。
皆さんもよきブースタードラフトライフを!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。