『FINAL FANTASY TRADING CARD GAME』の公式記事連載。今週は「MASTERS2019」神戸大会で優勝したしどさんのインタビューをお届けします。「専用機」とも呼ばれるオリジナルのデッキはどう誕生したのかを聞きました。
◆はじめに
皆さん、こんにちは! 『FF-TCG』プレイヤーのたるほです。
4月15日に「Opus VIII」環境で関西初の全国大会である「MASTERS2019」神戸大会が開催されました。
僕は残念ながら参加できなかったのですが用事でたまたま会場近くにいたため、大会後にその日優勝したしどさんに連絡を取ったところインタビューに応じていただけました。
いつも独創的なデッキ構築で僕たちを驚かせてくれるしどさんの最新作「風氷土ユウナ」はどう生まれたのかを聞いてきましたので、その模様をお届けします。
しど
大阪のプレイヤー。
2018年は「MASTERS THE AFTER」で優勝し、日本代表選手として世界選手権に参加しベスト16入賞。
オリジナルのデッキを構築することにこだわりを持っていて「人と同じデッキは使わない」という自分ルールのもと『FF-TCG』を楽しんでいる。
今大会では『FF』シリーズでも特に思い入れの深いキャラクターだという《ユウナ》を使ったデッキで優勝を果たした。
◆ひらめきと気付き。「風氷土ユウナ」ができるまで
――優勝おめでとうございます。
しど:ありがとうございます。
――しどさんは昨年度の日本代表の1人で、普段から独創的なデッキを使うプレイヤーということもあり「Opus VIII」環境でも新作を期待していたプレイヤーも多かったのではないかと思います。今回のデッキは「風氷土ユウナ」ですが、これもまた珍しいタイプのデッキですね。
しど:大会当日の朝に閃いたアイディアでしたが、いい電波を受信してくれたようでよかったです(笑)。
――朝に閃いた、ということは大会当日に組まれたデッキなんですか?
しど:「Opus VIII」環境では【7-127L】《ユウナ》を使いたいなと思っていて、前日までは「氷風土水ユウナ」を組んでいました。
●サンプルレシピ:「氷風土水ユウナ」
カードNo. | カード名 | 枚数 |
フォワード(10枚) | ||
【7-127L】 | 《ユウナ》 | 3 |
【6-044L】 | 《ジタン》 | 3 |
【8-049L】 | 《エアリス》 | 1 |
【6-123L】 | 《ミンウ》 | 3 |
バックアップ(17枚) | ||
【7-036R】 | 《ティナ》 | 3 |
【5-154S】 | 《ユール》 | 2 |
【1-197S】 | 《アニキ》 | 2 |
【1-107L】 | 《シャントット》 | 2 |
【6-064H】 | 《アジドマルジド》 | 3 |
【6-118C】 | 《占星術師》 | 3 |
【3-127R】 | 《エーコ》 | 1 |
【1-183H】 | 《コスモス》 | 2 |
召喚獣(23枚) | ||
【5-032H】 | 《グラシャラボラス》 | 3 |
【4-046R】 | 《リッチ》 | 3 |
【3-037H】 | 《死の天使ザルエラ》 | 2 |
【1-198S】 | 《ヴァルファーレ》 | 3 |
【8-046R】 | 《アレキサンダー》 | 3 |
【5-077H】 | 《カーバンクル》 | 3 |
【1-117R】 | 《ヘカトンケイル》 | 1 |
【1-172C】 | 《モーグリ》 | 3 |
【4-128C】 | 《コヨコヨ》 | 2 |
――前日までは4属性デッキだったんですね。
しど:【7-127L】《ユウナ》を使うにあたっては「Opus VII」環境で友人たちや周りのプレイヤーが作っていたデッキから、
・「氷風ユウナ」の【4-046R】《リッチ》+【1-198S】《ヴァルファーレ》
・「氷水ユウナ」の【1-172C】《モーグリ》+【4-128C】《コヨコヨ》+【7-036R】《ティナ》
・「氷土」の【7-036R】《ティナ》+【5-077H】《カーバンクル》
というギミックを借りて、これらを1つのデッキにまとめていました。
これはこれでかなりいいデッキだったのですが、『FF-TCG』はデッキの枚数が50枚という制限があるので、山札をリソースにするこのデッキではドローが進みすぎて相手を倒す前にこちらがデッキ切れで負けてしまうという課題があり、大会に持ち込むのには不安を感じていました。しかし当日の朝「デッキが切れるなら水属性を抜いてカードを引くのをやめてしまえばいいんじゃないか?」と気付き、組み直したのが今回使った「風氷土ユウナ」になります。
●「風氷土ユウナ」(「MASTERS2019」神戸大会:優勝)
カードNo. | カード名 | 枚数 |
フォワード(15枚) | ||
【7-127L】 | 《ユウナ》 | 3 |
【1-199S】 | 《パイン》 | 2 |
【5-068L】 | 《ヤ・シュトラ》 | 2 |
【8-049L】 | 《エアリス》 | 2 |
【8-060L】 | 《フィーナ》 | 3 |
バックアップ(18枚) | ||
【7-036R】 | 《ティナ》 | 3 |
【7-134S】 | 《皇帝》 | 2 |
【1-089S】 | 《リュック》 | 3 |
【3-070C】 | 《予言士》 | 3 |
【1-197S】 | 《アニキ》 | 2 |
【1-107L】 | 《シャントット》 | 3 |
【6-064H】 | 《アジドマルジド》 | 2 |
召喚獣(17枚) | ||
【5-032H】 | 《グラシャラボラス》 | 3 |
【4-046R】 | 《リッチ》 | 3 |
【3-037H】 | 《死の天使ザルエラ》 | 3 |
【1-198S】 | 《ヴァルファーレ》 | 3 |
【8-046R】 | 《アレキサンダー》 | 3 |
【5-062L】 | 《ディアボロス》 | 2 |
【5-077H】 | 《カーバンクル》 | 3 |
――2つのデッキは同じ【7-127L】《ユウナ》を使ったデッキでもかなり別のデッキに見えますが、これらはどういったデッキなんでしょう?
しど:元の「氷風土水ユウナ」では【6-123L】《ミンウ》のアタック時のオートアビリティで【8-046R】《アレキサンダー》などの召喚獣を連発して除去を行ない、そのままダメージを与えることで勝つことをコンセプトにしていました。それに対して「風氷土ユウナ」は基本的に【1-089S】《リュック》を使って相手のデッキを0枚にするのがデッキの主な勝ち筋だと考えていました。
――水属性を抜いたことでよりディフェンシブなデッキになったわけですね。
しど:僕もそう思っていました。実際、大会の前半3回戦は全勝できて、そのうち2戦は相手のデッキを切らせての勝利でした。ですが午後になりようやくプレイもなじんできたころに「このデッキはもしかしてデッキ切れを狙うデッキじゃないかも知れない」と思い当たったんです。
――自分でもデッキの勝ち筋を誤解していたと。それに気付いたのはどんなきっかけがあったんでしょうか?
しど:前半戦は相手の盤面を除去しきっても「安全に勝つためにアタックするのはやめよう」という選択をしていたんですが、そういった場面が非常に多く、何もしないで防御に構えるターンを攻撃に回せば勝てるんじゃないかと感じ始めたんです。それで思い切って攻勢に出たらデッキ切れを狙うより簡単に勝つことができたので、その時に「ああ、このデッキは攻撃的なデッキなんだな」と気付きました。もちろん当初の狙いどおりデッキ切れで勝つプランもあるので、自分の想定よりも勝ちに向かう選択肢を広く取れるデッキでした。その理由として考えられるのが【5-077H】《カーバンクル》です。このカードが想像の何倍も強かったことが「攻めるプラン」を可能にしてくれたと思います。
もともとこのカードは先ほどギミックの1つとして説明したように【7-036R】《ティナ》とのコンボで使うカードとして採用していました。また【5-068L】《ヤ・シュトラ》や【8-049L】《エアリス》が戦闘でもやられにくくなり、【7-036R】《ティナ》も合わせて攻防にわたって活躍してくれました。【7-127L】《ユウナ》のアビリティでめくると手札が増える点と、相手のフォワードも選べるので【7-036R】《ティナ》がいれば自分のフォワードがいなくても防御に使える点も強力でした。
――続いてデッキのほかの部分についてうかがいたいと思いますが、【7-127L】《ユウナ》と【1-089S】《リュック》を使うデッキで【1-199S】《パイン》を2枚採用というのも珍しい印象です。そこまで「ユ・リ・パ」にこだわったデッキではないということでしょうか。
しど:最初にイメージしたリストでは【1-199S】《パイン》は採用しておらず、フォワードは【5-068L】《ヤ・シュトラ》【8-049L】《エアリス》【8-060L】《フィーナ》が3枚ずつで考えていました。しかし場持ちがいいカードを3枚ずつ採用するのはデッキとしてスマートではないと思い、【5-068L】《ヤ・シュトラ》と【8-049L】《エアリス》を1枚ずつ【1-199S】《パイン》にずらしました。
――3枚から2枚にしたのではなく、むしろ0枚から2枚に増やしたわけですね。【8-060L】《フィーナ》の使い勝手はいかがでしたか。
しど:【8-060L】《フィーナ》は【4-046R】《リッチ》【1-198S】《ヴァルファーレ》とコンボしますし、デッキ切れを狙うプランの時【1-089S】《リュック》を1たーんに複数回起動したり、また解決時に【7-127L】《ユウナ》の回収テキストを使うとバックアップが奇数枚のときでも無駄なく動けるのでデッキとの相性が非常によかったですね。
――召喚獣の選択は【7-127L】《ユウナ》の要ともいえると思いますが、【4-046R】《リッチ》【1-198S】《ヴァルファーレ》【5-077H】《カーバンクル》以外はどのように選んだのでしょう?
しど:【7-036R】《ティナ》を使うデッキなので相性がよく、個人的に最強の召喚獣だと思っている【5-032H】《グラシャラボラス》と速攻系のデッキに強い【3-037H】《死の天使ザルエラ》は3枚ずつ投入し、前回の「MASTERS」千葉大会で活躍した「土風」に勝つために【8-046R】《アレキサンダー》も3枚採用しました。【5-062L】《ディアボロス》は強力ですが、コンボ性の高い召喚獣を重視していたためスロットの都合で2枚採用にとどめています。
――3属性デッキということでバックアップについてもお聞きしたいです。
しど:フォワードがすべて風のCPからプレイでき、召喚獣は氷のカードの使用頻度が高いため、「風氷」の動きができるようにバックアップを並べます。風属性は【1-089S】《リュック》に加えて【3-070C】《予言士》を採用することでデッキ切れを狙いやすくできるよう意識しました。
氷属性は【7-036R】《ティナ》と【7-134S】《皇帝》ですが、【7-134S】《皇帝》は「水氷ユウナ」にも入っていたカードで、【7-036R】《ティナ》でダルにしたフォワードをブレイクできるのでデッキとの相性もよかったです。
土属性は【5-077H】《カーバンクル》をプレイするための属性なので枚数をおさえつつ、他の属性のCPにつながりやすい【1-107L】《シャントット》と【6-064H】《アジドマルジド》を採用しました。
――4属性のときには入っていた【1-183H】《コスモス》が抜けていますが、3属性ならこのカードなしでも大丈夫という判断だったわけですね。
しど:このデッキは序盤は「風氷」デッキとして立ち上がり、相手の初動をさばいてから土属性も出せるようにして【5-077H】《カーバンクル》を介して攻めるか守るかを決める、という流れで戦います。常に3属性のCPが求められるわけではなく、中盤以降は各属性のCPを供給できるようにしたので【1-183H】《コスモス》はなくても問題ありませんでした。
――役割が明確なぶん、無理やりCPを生み出さなくても安定してプレイしやすいんですね。今回大会に出るにあたって「Opus VIII」環境はどのようものだと予想していましたか?
しど:恥ずかしながら僕は環境考察をするのが苦手で今まで自分の環境予想が当たった試しがありません(笑)。なので、あまり環境を読んでそれに有利なデッキを選ぼうとは考えませんでしたね。今回は直前の「MASTERS」千葉大会で優勝していた「土風」が非常にいいデッキだったので構築段階で意識しましたが、それまでは【8-115L】《ジタン》を使った「火水」デッキが多いんじゃないのかなと思っていました。
そして大会で負けたのも「火水ジタン」でした。自分のなかでこういうデッキに弱いなというビジョンはあっても、環境を見て自分が使うデッキを選んでいくことはしないようにしています。だいたい「変なデッキで大会に出る」ということは、自分よりも相手の方が困るはずという前提があるので「苦手なデッキ、わからないデッキでもお互いさまだ」と開き直って結構のびのびとプレイしています。「この変なデッキと戦って初見で正解を導けるわけないだろう、なにせ使ってる本人ですらデッキの勝ち手段がもう一つあることに気付くのに3試合かかったんだぞ」と(笑)。
実は「風氷土ユウナ」は【8-049L】《エアリス》を対処できるカードが【3-037H】《死の天使ザルエラ》と【7-134S】《皇帝》しかないので出されると非常に苦戦を強いられるのですが、一見あまり有効でないように見えるのか大会中も対戦相手が【8-049L】《エアリス》をコストにしてくれることがあり、内心「よしよし、バレてないぞバレてないぞ」と思っていました(笑)。
――環境の外に自分の土俵を用意することで、環境を読んでデッキを組んできた人ほど困惑させられるわけですね。
しど:はい。自分で考えるのが苦手なぶん、いかに知らないデッキを使って相手を困らせてやろうかと考えています。
◆足りなければ足せばいい。多属性デッキの構築法
――今回の「風氷土ユウナ」のように、しどさんのデッキは非常にオリジナリティの高いものが多く「専用機」と呼んでいるプレイヤーも多いですが、普段はどんな風にデッキを組んでいるんですか?
しど:以前のインタビューでもお話しましたが、僕は「同じデッキで大会に出ない」と「オリジナルデッキしか使わない」という自分ルールがあるので、誰かが使ったデッキをそのまま使うということはしません。ですが、それ以外は結構自由に組んでいて、今回のように周りのプレイヤーの持っているアイディアを融合させてデッキにすることもありますし、一昨年の「Grand Championship 名古屋」では大会当日の早朝にランダムに引いた2色の組み合わせでデッキを作るというお題でデッキを作ったりもしました。
――僕も「Grand Championship 名古屋」の時は、その話を聞いた時はびっくりして言葉が出なかったのをおぼえています。
しど:あくまで僕は、ですが、組んでいくなかで50枚かもしくはそれに近くなったものをデッキだと考えているので、50枚にまとまりさえすればある程度の強さはあると思っています。反対に、50枚にまとまらなかったものは自分のなかではデッキとして考えないようにしています。
【8-115L】《ジタン》を例にあげると、【8-115L】《ジタン》にヘイストを与えられる火属性は相性もよく「火水」はなんとなく強そうだなというイメージはあります。しかし、これはコンボの中枢を占める【8-115L】《ジタン》とそれにヘイストを与えるカードの組み合わせが強いと思っているだけで、残り40枚近くのカードは何が強いのか結論が出せていません。なので、今僕が「火水」を組んでもデッキとして自分で認めることができないと思います。ですが、今日の大会で唯一負けたのは「火水ジタン」でしたし、しっかり形にすることができる方はすごいなと感じました。
――こだわりが強いぶん、デッキが完成しないこともあるというわけですね。多属性デッキを好んで使うのにはなにか理由があるんでしょうか?
しど:デッキを50枚にする過程でアイディアを詰め込んでいくうちに自然と追加されてしまうんです。属性が増えた方がやれることが増えますしね。
――デッキに1属性足すのはCP供給という観点からするとなかなかハードルが高いことにも思えます。
しど:そこのハードルの高さはあまり感じたことがないです。「風氷土ユウナ」も序盤に必要なCPは風と氷で、いつまでに土のCPが出せるようになればいいといったことを考えて枚数を調整できました。「ギミックを搭載する」「50枚にまとめる」「ちゃんと回る」、この3つを満たすようにすることがデッキ構築だと考えています。もちろん僕も4属性以上のデッキを作るときは【1-183H】《コスモス》【1-184H】《カオス》を入れたりすることもあると思います。
――3属性までは【1-183H】《コスモス》【1-184H】《カオス》でも大丈夫というのが、しどさんらしいですね。では最後に、今後に向けてコメントなどあればお願いします。
しど:実は今回ひとつだけ心残りがあって、優勝したら写真撮影でAlex Hancox選手(※2018年の世界選手権チャンピオン。あごの下に指を当てる独特のポーズがトレードマーク)の真似をしたポーズを決めようと思っていたんですが、あまりの疲れに忘れてしまったので、今月末の「JAPAN CUP」で優勝して、次こそこのポーズで写真に写りたいと思います!
――ありがとうございました。
◆終わりに
「MASTERS2019」神戸大会で優勝されたしどさんへのインタビューでした。
オリジリティあふれるデッキ構築の裏側には、独自のこだわりと柔軟な発想力があったようです。
東西の最初の「MASTERS2019」地区大会が終わり、2大会連続で多属性のコントロールが優勝でしたが、単色デッキや「チョコボ」のようなテンポ系のデッキの活躍も期待していきたいところです。
次はいよいよ平成最後の大型イベント「JAPAN CUP」と「MASTERS2019」名古屋大会です。「JAPAN CUP」は2デッキ制の大会なので、ここでも新たなデッキの登場を期待せずにはいられません!
僕も大会に突撃し、平成最後の『FF-TCG』を楽しんできたいと思います。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!