【FFTCG】机上の空論が形を成し、新たな栄光に ~「MASTERS2024」横浜大会優勝者インタビュー~

『FINAL FANTASY TRADING CARD GAME』の公式記事連載。今週は「MASTERS2024」横浜大会で優勝した、しどさんのインタビューをお届けします。

◆はじめに
みなさん、こんにちは!
『FFTCG』公式記事ライターのたるほです。

ブースターパック「秘められた希望」が発売され、はや2か月。新たなカードと新メカニズム『Limit Break』が登場したことによりスタンダードとL3構築、どちらのフォーマットでも大きく環境が変化しています。そのなかで公式トーナメント「MASTERS 2024」では、研ぎ澄まされた数枚のカードチョイスが明暗を分けるような白熱した戦いが続いています。僕の記事が、日々更新される環境についていく手助けになればと思います。

さて今回は「MASTERS 2024 1st season」の最後となった横浜大会でみごと優勝された関東の強豪プレイヤー・しどさんにインタビューを行ない、「秘められた希望」シーズンのL3環境に名乗りを上げた「氷雷【VIII】」についてお話をうかがいました。

 


◆机上の空論から生まれ、勝ち抜いた「氷雷【VIII】」 

――「MASTERS 2024」横浜大会、優勝おめでとうございます。

しど:ありがとうございます。

――しどさんは日本代表として「世界選手権」に出場されたこともある関東でも有数の強豪プレイヤーということで、今大会の優勝もさすがの実力だなといったところですが、なかでも横浜で開催される大会は優勝回数も群を抜いて多いですよね。

しど:覚えているだけでも4回優勝しているので、確かにそうですね(笑)。横浜という土地と相性がいいのかもしれません。

――横浜大会は関東では初となる「秘められた希望」環境のL3構築での大会でした。しどさんは「氷雷【VIII】」を持ち込んでいますが、今回はどういった経緯でデッキ選択を行ったのでしょうか?

しど:恥ずかしい話、実は「氷雷【VIII】」は机上の空論から生まれたデッキなんです。というのも横浜大会は個人的に今シーズン参加する唯一のL3構築の大会で、6月末には「Standard Championship 2024」も控えているため、あまりL3構築の調整に時間を割けないなかでの参加でした。僕ももちろんですし、普段調整をともに行なうメンバーにとっても、しっかりとL3構築について考えたのはゴールデンウィークに行なった調整会の一度きりだったと思います。その調整会のときにeurekaくんが【22-075H】《イデア》をタッチで採用した「氷水【VIII】」を持ち込んでいて、それにかなり手応えがあったので、そこからより【カテゴリ(VIII)】にフォーカスした構築にチューニングしたのが「氷雷【VIII】」の始まりです。

デッキリスト「氷雷【VIII】」(「MASTERS 2024」横浜大会優勝 フォーマット:L3構築) 

カード番号 カード名 枚数
【メインデッキ】
フォワード(37枚)
【21-027L】 《グリーヴァ》 3
【21-023L】 《アルティミシア》 3
【22-031H】 《スコール》 3
【21-036H】 《ヤ・シュトラ》 2
【22-022R】 《キスティス》 3
【22-075H】 《イデア》 3
【22-073L】 《アルティミシア》 2
【22-077H】 《ガルーダ[III]》 2
【20-088L】 《エスティニアン》 1
【21-081L】 《アーヴァイン》 3
【22-079L】 《サイファー》 3
【22-084R】 《風神》 3
【22-087R】 《雷神》 3
【22-010L】 《セルフィ》 3
バックアップ(12枚)
【21-024C】 《学者》 3
【20-025C】 《曲芸士》 3
【20-028R】 《シスネ》 1
【21-082C】 《赤魔道士》 3
【21-085H】 《ガストラ皇帝》 2
召喚獣(1枚)
【20-103H】 《ラムウ》 1
【LBデッキ】
フォワード(8枚)
【22-112R】 《ザックス》 1
【22-114H】 《ヴィクトラ》 1
【22-115R】 《サージェス》 3
【22-120H】 《クラウド》 2
【22-121R】 《ライトニング》 1

――机上の空論から生まれたということですが、実際このデッキはどういった点に強みがあると考えられたのでしょう?

しど:原案のデッキが「氷水【VIII】」であることから想像がつく方もいると思うのですが、このデッキの主軸になるのは【21-027L】《グリーヴァ》です。もともと調整会前は漠然と「火単」や「闇の戦士」デッキが多いだろうという環境の認識をしていました。特に「闇の戦士」デッキは【22-067L】《ナハト》を引けたときのバリューが高く、頭一つ抜けたデッキだと思っていました


そして調整会の中で、先攻を取った「氷水【VIII】」の【21-027L】《グリーヴァ》のバリューが【22-067L】《ナハト》以上のものだと気付いたことが、L3構築における【カテゴリ(VIII)】の評価が一気に高くなった理由です。

もちろんそれだけなら「闇の戦士」デッキでも十分なのですが、「闇の戦士」デッキが【22-067L】《ナハト》のバリューに依存するのに対し、【カテゴリ(VIII)】は【21-027L】《グリーヴァ》以外の役者もそろっているのが強みです。スタートカードとしては【22-031H】《スコール》も強力で、【21-027L】《グリーヴァ》が引けなかったゲームでも別の角度からゲームを仕掛けることができます。水属性が抜けたことで【21-115C】《ラーサー》は採用できないのですが、スタートカード自体が増えたことでその点も補ってくれています。スタートカードという意味では【22-075H】《イデア》や【22-010L】《セルフィ》といった選択肢もあります。

【22-010L】《セルフィ》はキャストする手段が限られますが、【22-075H】《イデア》から2枚目の【22-010L】《セルフィ》をサーチすることで無理やりキャストすることもしばしばありました。このカードの強力なところは当然フォワードをサーチしつつヘイストを付与できるところにあるのですが、それとは別に、除去に選ばれにくいという隠された強さもあります

――【22-010L】《セルフィ》が除去に選ばれにくいというのはどういうことでしょうか?

しど:たとえば【22-010L】《セルフィ》と一緒に【22-031H】《スコール》や【22-079L】《サイファー》、【22-075H】《イデア》が並んでいる場合、どちらかに除去を打つとしたら多くのプレイヤーが【22-010L】《セルフィ》ではないほうを選ぶと思います。これがスタンダードであれば【22-010L】《セルフィ》を同時に対処する手段も多いのですが、除去手段が限られるL3構築においては、こういった状況で【22-010L】《セルフィ》はかなり生き残りやすいです。そして【22-010L】《セルフィ》が生き残ることにより、次のターンに出たフォワードはヘイストを与えられアタックに参加できます。これが繰り返されることで、相手が【22-010L】《セルフィ》に対処できるころには取り返しのつかないダメージ差が生まれているというのが、L3構築における【22-010L】《セルフィ》の強さの本質だと考えています。

もちろんブレイクゾーンが十分に貯まり条件を満たすことで発揮される【22-079L】《サイファー》や【22-075H】《イデア》のバリューも高く、総じて【21-027L】《グリーヴァ》以外のカードでも安定して戦えるというのが「氷雷【VIII】」の強みと言えます。デッキの最大値とアベレージがともに高い水準を満たしていることから、横浜大会で使うなら「氷雷【VIII】」だろうなというふうに考えていました。

――【カテゴリ(VIII)】については、ブレイクゾーン対策という明確な弱点を抱えがちな印象がありますが、こうした不安要素に対する懸念などはありませんでしたか?

しど:もちろん【カテゴリ(VIII)】にとってブレイクゾーン対策は脅威ではあるのですが、そもそもL3構築ではカードプールに存在するブレイクゾーン対策が限られています。加えて、このデッキでは要となる【21-027L】《グリーヴァ》がブレイクゾーン対策の効きにくいカードであるというのもポイントです。基本的には【21-027L】《グリーヴァ》を中心とした戦いをしつつ、セカンドプランで【22-079L】《サイファー》・【22-075H】《イデア》といったカードで戦っていくという指針で、デッキ自体も攻めっけの強いものだったので、そもそも相手にブレイクゾーン対策をする隙を与えない戦い方ができるという点でも、ブレイクゾーンを除外されることがクリティカルな弱点になったということはありませんでした。

――「氷水【VIII】」からより【カテゴリ(VIII)】にフォーカスしたということで、全体的にコンパクトにまとまった印象を受けるリストですね。

しど:そうですね。ただ最初に話したとおり、机上で作ったデッキなので、実は採用カードについてはかなり反省があります。採点したらフォワード70点、バックアップ95点、召喚獣0点くらいのリストだと思っています……。

――けっこう辛口な評価ですが、具体的にどういったところが反省点なのでしょう?

しど:まずフォワードですが、大会を通じてほとんど使用しないカードが多く、全体的にもっとふさわしいカードを採用できたと感じています。なかでも【21-081L】《アーヴァイン》、【21-036H】《ヤ・シュトラ》【22-077H】《ガルーダ [III]》は採用しなくてもよかったなと明確に感じているカードです。


――【21-081L】《アーヴァイン》は【カテゴリ(VIII)】という点で見ても採用されていることに違和感のないカードなので意外ですね。

しど:個人的な感覚なのですが、『FFTCG』はCPの稼ぎ合い、奪い合いがゲームの本質だと考えているので、直接CPに干渉しないカードはあまり使わないようにしようというのが僕の『FFTCG』観の根底にあります。その観点において【21-081L】《アーヴァイン》というカードは、CPを得ることも奪うこともしないので、自分の中ではそれほど評価の高いカードではありません。確かにブレイクゾーンを除外するなど明確な役割を持ち、相手にすると嫌な場面もあるのですが、究極的には実質コスト3のヘイストを持つだけのフォワードです。

――【21-036H】《ヤ・シュトラ》や【22-077H】《ガルーダ [III]》はスタンダード環境でも「氷雷」に採用されるポテンシャルを持つカードですが、これらも採用を見送るほどのカードだったのでしょうか?

しど:これらについてはそもそも【カテゴリ(VIII)】を持たないことでキャストするチャンスがなかったというのが反省している理由です。基本的に「氷雷【VIII】」は、デッキが動き始めれば【21-027L】《グリーヴァ》【22-031H】《スコール》【22-079L】《サイファー》【22-075H】《イデア》【22-010L】《セルフィ》でフィールドに送り込むカードのパッケージが完結し、これ以外のカードをフィールドに出すことがなくなります。

それ以外で使うとすれば追加のヘイスト要員になるのですが、【21-036H】《ヤ・シュトラ》と【20-088L】《エスティニアン》を比べると、単純なヘイスト持ちのフォワードというポジションでは【20-088L】《エスティニアン》に軍配が上がるというのが僕の評価です。


また【22-077H】《ガルーダ [III]》に関しては、実際対戦中に【22-077H】《ガルーダ [III]》を出せるこれ以上ない局面ですら【22-075H】《イデア》を優先したということもあり、あの状況で出さないのなら採用する必要はなかっただろうと反省しています。

――逆にこれらのカードより優先して採用すべきカードがあったということでしょうか?

しど:現在このデッキには21枚の氷属性のカードが採用されているのですが、スタートカードが【21-027L】《グリーヴァ》や【22-031H】《スコール》であることを考えると、氷属性の採用枚数には若干の不安がありますその意味でたとえば【カテゴリ(VIII)】の【PR-155】《ラグナ》を採用したり、【21-023L】《アルティミシア》との兼ね合いで【22-026C】《シーモア》を入れるというのは選択肢に挙がると思います。


フォワード側で氷属性の採用比率を上げると、バックアップの【20-028R】《シスネ》を【20-105C】《リーブ》に変えられますし、そうするとブレイクゾーンを増やすうえでもより動きやすくなるので、このスロットは明確に変更するべきでした。むしろここだけしっかりしていればバックアップは100点だったと言っていいと思っています。

――バックアップに関してはかなり納得のいくカード採用をされていたようですね。

しど:横浜大会では僕以外にも「氷雷【VIII】」を使っているプレイヤーはいましたが、バックアップの採用に関しては間違いなく自分が一番正解に近かったという自負があります

――実際に優勝という結果を残されていますからね。ちなみに具体的にどういった点からそう考えられているのですか?

しど:その理由は【21-024C】《学者》と【21-082C】《赤魔道士》の奇数コストバックアップを合計6枚採用した点にあります。前提として僕は実質1CP換算になるバックアップを非常に高く評価していて、可能であればすべてのデッキで採用枠の半分……なんなら全部を奇数コストバックアップにしたいと思っています。特に初動のベストムーブが【21-027L】《グリーヴァ》+バックアップ1枚であるこのデッキでは、2ターン目以降にトップから引いてきたカードで動けないことが多々あります。そういったシーンでも、実質1CP換算のバックアップであればバックアップを伸ばしつつ、手札を1枚コストに当てるという動きが可能です。大会中はそうした局面で奇数コストのバックアップを引くたび、6枚採用した自分をほめていました(笑)。

また、手札をコストにしやすいという点は、ブレイクゾーンを肥やしたいというデッキの方向性ともかみ合っています。実際、これらのカードのおかげで【22-075H】《イデア》や【22-079L】《サイファー》が条件を満たせるという局面は多かったです。クリスタルを獲得できる効果も、構築段階では【22-077H】《ガルーダ [III]》の運用を助けてくれる要素としてかなり評価していました。結果的に【22-077H】《ガルーダ [III]》を使うことはありませんでしたが、カードのテキストすべてに価値を持たせて採用できたという意味で、ベストな選択だと今でも思っています。クリスタルギミックで本当に1つだけ反省するとしたら、【20-044L】《エッジ》を採用し忘れたことなのですが、これは大会中にずっと反省していたので、気付いた人は見逃してもらえると助かります(笑)。


――召喚獣は0点ということでしたが、【20-103H】《ラムウ》は【21-027L】《グリーヴァ》にもヘイストを付けられますし、悪くない選択肢に思います。

しど:
【20-103H】《ラムウ》は本当に当日の朝まで採用していなかったのですが、詰めのシーンで【22-121R】《ライトニング》+【20-103H】《ラムウ》のコンボが決まったらかっこいいだろうなという欲望に負けてしまいました。


【22-079L】《サイファー》にヘイストを付けるなど役割がないわけではありませんが、実際に使うこともなかったですし、冷静な判断ではなかったと思います。

――反省点も多いようですが、デッキの長所が正しく発揮された、いわばコンセプトの勝利と言える結果だと思います。

しど:ありがとうございます。ただ、結果とは別に今回僕があまり調整に時間を取れなかったように、周りのプレイヤーも同じ状況だったのではないかというふうにも思っています。最初に話したとおり「Standard Championship 2024」が控えているなかで関東では初のL3構築のトーナメントという状況は多くのプレイヤーにとっても同様で、全体的にL3構築の研究が進んでいなかったからこそ初期のコンセプトが通用した側面があるのかなと思います。

実際、京都大会に遠征していたai_fftcgさんや、今回決勝で戦ったたまごまんさんは単純な環境理解という点で、自分のはるか先を行っている印象を受けました。その意味でも横浜という土地との相性がよかったんじゃないかなと思います。

――過程はどうあれ、優勝という結果はさすがだと思います。これで今年度も「MASTERS 2024 FINAL」への切符を手にしたわけですが、今後に向けて何か一言お願いします。
しど:当面の目標ですが、まずはなんといっても「Standard Championship 2024」での優勝が目標です。今回の優勝は幸先のよい一歩になったと思うので、これを弾みに勢いに乗って臨みたいと思います。

――ありがとうございました!

 


◆おわりに
今回は「MASTERS 2024」横浜大会で優勝されたしどさんに、机上の空論から生まれたという「氷雷【VIII】」についてお話をうかがいました。
もちろん本人の実力あっての結果ですが、正しく強みを見定めることで、机上からでもしっかりとトーナメントに通じるデッキを作り上げられるという好例だったと思います。
コンセプトを意識したデッキ作りは今後よりいっそう意識していきたいですね。

今回の横浜大会で「MASTERS 2024 1st season」が終わりひと区切りとなりました。
6月からは「MASTERS 2024 2nd season」、そして6月末には「Standard Championship 2024」が開催されます。

勝負の1か月となる『FFTCG』のトーナメントシーンをさまざまな方向から追いかけていきたいと思いますので、ぜひお楽しみに!

それでは、また次回の記事でお会いしましょう!